朝日ぐんまって 朝日フォトコンテストコラム

総局長日記 バックナンバー

時代を超える画[10月26日号]

 「戦争を思い出して、疲れちゃった」。家族と美術展を見ていた車いすの高齢女性が、休息をとっておられました。戦中は少女期でしょうか。悲しげな表情に心痛みました。群馬県立館林美術館で12月24日まで開催中の「時代に生き、時代を超える」展でのことです。

 展示されているのは、大正から戦後占領期までに制作された近代洋画120点余と同時代の資料です。大正モダンから震災、工業化、恐慌、戦争と占領……。作品の美とともに、制作時に主に20~30代だった画家たちの生きた時代、抱えた不安、現実への受容も感じとれます。

 東京・板橋区立美術館の収蔵品を軸とした展示ですが、生誕120年展が富岡市で開催中の福沢一郎、生誕110年展が今春あった鶴岡政男、没後50年展が高崎市で開催中の山口薫ら、県出身者の作品も並びます。近代美術における県人の役割も示す今回の展示で、館林出身の藤牧義夫の画業を学びました。

 謎の多い、夭逝した画家です。7年前に藤牧の生誕100年展を催した館林美術館のまとめた年譜などによると、16歳で上京し、染織図案家に入門。21歳で版画家団体の結成に参加し22歳で帝展に入選するも、24歳だった昭和10年に突然姿を消しました。

 都市の風景を独創的に表現した版画のほか、隅田川周辺を墨の描線で描いた全長60㍍の絵巻で知られます。「時代に生きよ時代を超えよ」。失踪の数カ月前に発表した文章の題から、本展示のタイトルはとられました。作品研究が進んだいま、もっと広く知られてほしい版画家です。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

縄文群馬もすごい[10月19日号]

 アーツ前橋で開催中の「岡本太郎と『今日の芸術』」展(1月14日まで。今月中は開館5周年記念で無料)を訪れると、芸術家岡本太郎のエネルギーと思想に圧倒されます。同館近くの広瀬川沿いに「太陽の鐘」が今春設置されたことで深まる、天才芸術家との縁に感動を覚えます。

 「芸術は爆発だ」の名言で知られる氏は、縄文の造形美を見いだし世に叫び、血肉にしたことで知られます。今夏、東京国立博物館で催された特別展「縄文」は30万人以上を集めました。閉幕間際に駆け込んだ私も、氏の功績で日本美術史に記された「縄文の美」に魅了されました。

 日本列島で1万年にわたって続いた縄文文化は、世界最古級の土器群を生みました。同時代の世界を見渡しても稀有な、ユニークで美しい装飾や曲線は、縄文人の暮らしや祈り、宇宙観を想起させます。「土偶女子」「縄文にハマる人々」といった言葉や映画の流行に納得です。

 人波にもまれた特別展では、渋川市の遺跡から出土した「深鉢形土器」「焼町土器」、東吾妻町の「ハート形土偶」、板倉町の土偶、榛東村の土製耳飾りにも出会いました。焼町土器は、今月17日からパリで始まった縄文展にも出品されています。

 県内には、桐生市の「みみずく形土偶」などもあり、土偶女子の熱い視線を集めます。榛東村の耳飾りは、577点という大量出土に驚きます。2年前に長野原町で確認された8300年前の人骨は、貝殻製の装飾品を着けていました。まだまだ深い群馬の歴史文化に、学びは尽きません。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

ノーベル賞の罠[10月12日号]

 日本人研究者のノーベル賞受賞で、にわかに「がん免疫療法」が注目を集めています。知人の患者支援団体代表からは、自分や家族のがん治療に、本庶佑・京都大特別教授の研究から生まれた新しい薬が使えないかという問い合わせが相次いでいる、と悲鳴が届きました。

 画期的な薬も万能でなく、使える患者は限られます。副作用のリスクもある。これらは丁寧に説明するしかない。けれどほかにも、深刻な問題があります。賞に便乗して、多彩な免疫療法の中でも賞の対象とは別の、効果が確認されていない高額な療法を勧めるクリニックや医師です。

 今月7日付の朝日新聞は、こうした「おまじない」のような保険外の療法にだまされないで欲しいと、大型記事を掲載しました。弱みにつけこむ医療には、反対です。ただ、すがりたくなる患者家族の気持ちは理解できます。

 一昨年から小欄で時折書いているように、実弟がステージ4のがんを患っています。当初の余命宣告は「治療しなければ3カ月、治療しても1年」。主治医から「体が動く今のうちに、身辺整理して実家に戻るのが親孝行じゃないですか」とさらっと言われ、絶望の淵に突き落とされました。

 2年たった今、がんは残っていますが、会社勤めを続けながら休日は趣味のスポーツを楽しんでいます。標準治療と呼ばれる、保険適用の治療です。この間、がん医療に詳しい知人に相談し慰められながら、心の均衡を保ちました。それがなければ、どうなったか。薬の開発と並び、必要な心理的サポートがあると痛感します。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

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