朝日ぐんまって 朝日フォトコンテストコラム

総局長日記 バックナンバー

災害・デマ・朔太郎[9月28日号]

〈朝鮮人あまた殺され/その血百里の間に連なれり/われ怒りて視る、何の惨虐ぞ〉。前橋出身の詩人萩原朔太郎の作です。関東大震災(1923年)直後、官憲や民間人らが朝鮮人を虐殺した事件が群馬でもあったことを、この詩の存在に教えられました。

 旧藤岡町の行政文書などによると、震災4日後、土木会社の依頼で朝鮮人労働者を保護していた藤岡署に、「自警団」の住民らが押しかけ、日本刀や竹槍で襲撃。翌日も別の朝鮮人を殺しました。計17人。犠牲者の名が、藤岡市の成道寺墓地にある慰霊碑に刻まれています。

 関東一円での虐殺はデマ(流言)が発端でした。放火、暴動、井戸に毒薬……。震災当日から起こったことが警察資料でわかります。富士山爆発、囚人脱走、大地震再来、とも流れました。

 昔のことだ、今は違うとは言えません。今月の北海道地震では「地鳴りがした。数時間後に地震がくる」「断水する」とデマが回り、行政などが否定に追われました。熊本地震では「ライオンが逃げた」と嘘のSNS投稿。消去後もクチコミで広まったといいます。

 政府の中央防災会議がまとめた関東大震災の報告書は、虐殺の背景を日韓併合への抵抗運動への恐れや差別感情だと指摘します。再び、朔太郎から。「我々の顔は、我々の皮膚は、一人一人にみんな異つて居る。けれども、実際は一人一人にみんな同一のところをもつて居るのである。この共通を人間同志の間に発見するとき、人類間の『道徳』と『愛』とが生れるのである」(「月に吠える」序文)。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

おかっぱと短髪[9月21日号]

 おかっぱ頭に丸メガネで、エレガントな装い。傍らには猫。そんなイメージが焼き付いている画家藤田嗣治が、短髪に軍服と、まったく逆の姿をした写真に引きつけられました。「没後50年 藤田嗣治展」を10月8日まで開催中の東京都美術館のショップで見つけた本の表紙です。

 明治期の東京に生まれ育ち、大正期に渡仏した藤田は、乳白色の絵肌と細やかな筆の線で描く裸婦像の作品が代表作。欧州で名声を確立しました。けれど戦中に日本で描いた「戦争画」のため戦後、批判を浴びて、パリに移住。2度と帰国しませんでした。

 私が知っていたのは、それぐらい。作品をみたのも裸婦像や少女像、秋田で制作した壁画など少数でした。藤田の画業を通覧する、過去最大級の本展示で初めて、その人生と向き合い、戦争画「アッツ島玉砕」「サイパン島同胞臣節を全うす」も鑑賞しました。

 2枚の戦争画はいまの私にとって、そのタイトル以外は、戦争の悲惨さと愚かさを感じさせました。日本刀を手に力尽きる日本兵の屍。子どもや女性ら非戦闘員を巻き込む自決。圧倒的な画力で苦痛が描かれます。けれど当時の日本では、その「特攻精神」が感動を呼び、戦意を高揚したといいます。

 戦中の朝日新聞紙面を繰ると、藤田らの戦争画完成を写真付きで報じ、展覧会を主催・後援。「文化面の戦争協力」を顕彰し、藤田ら文化人に授賞していたことが分かります。終生描くことに没頭し、戦争画でも芸術性を究めようとした藤田と、熱狂した新聞や人々。その違いは何かと考え続けています。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

まわり念仏から[9月14日号]

 毎月7日、嬬恋村の鎌原観音堂を訪れました。天明の浅間山噴火(1783年)から続くという「まわり念仏」を聞くためです。「人畜田畑家屋まで 皆泥海の下となり」。住民570人のうち477人を亡くした災害と復興の軌跡を詠む「和讃」を月2回、唱え継ぎます。

 200年以上もなぜ? 私の問いに、鎌原郷司さん(70)は「(土石なだれに)埋もれた上に再興した集落。先祖の上で生活させてもらっているという気持ちがある」。観音堂への石段を駆け上り、生き延びた93人から続く家系といいます。

 まわり念仏は、かつて集落の各戸が時計回りに担当し、今も掛け軸などを預かる当番があるといいます。春の彼岸には被災直後の祝言が由来の団子をつくり、噴火の起きた8月には供養祭。鎌原さんが会長を務める奉仕会は、観音堂の境内を毎日整え、訪問客を接待します。

 この夏、日本列島は相次いで災害に見舞われ、多くの命が奪われました。常に課題となるのは、時空を超えて危機感を共有する意識です。広島では、4年前の土砂災害に似た地形の宅地なのに、避難が遅れた。岡山倉敷の真備町地区は、過去何度も水害に遭いハザードマップに記載もあった。災害後の報道に悔しさが募ります。

 災害が少ないと言われる群馬ですが、火山の歴史を学んで認識を改めました。赤城山麓では、地震による地割れや土砂崩れの形跡もあるといいます。「想定外のことが起きるのが災害」。専門家の言葉にはっとしました。まず身を守るために、どう動くか。そして次に……。私の防災イメトレです。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

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