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ドラマを伝える[7月14日号]

 朝日新聞記者になると漏れなく高校野球取材が付いてきます。野球が得意であろうとなかろうと。24歳の春。夏の大会を担当するのを前に、同期のスポーツ記者から、取材の参考にと一冊の本を薦められました。
 「スローカーブを、もう一球」(角川文庫)。山際淳司さんのノンフィクション8篇を収めた代表作です。冒頭の「八月のカクテル光線」は、延長18回を戦った星稜(石川)—箕島(和歌山)戦をめぐる人間模様。当時私は石川にいて、その夏、山下智茂監督率いる星稜が代表になりました。
 群馬に赴任した昨春。四半世紀前に手にした本の表題作が、高崎高校硬式野球部のことだと気づき、読み返しました。伝統ある進学校の快進撃に興奮し動揺する周囲の大人たちと、冷静に自らを見るエースや監督との対比が印象的です。「江夏の21球」の作者だからこその秀作です。
 高崎高校が甲子園に出場したのは、この作品で描かれた1980年秋季関東大会の翌春と、2012年春の2回。全国のスポーツファンが、タカタカの名やスローカーブを持つ主戦の存在を脳裏に深く刻んだのは、山際さんのこの作によるところが大きいでしょう。
 この本の末尾にヘミングウェイの言葉が引かれます。「スポーツはすべてのことを、つまり、人生ってやつを教えてくれるんだ」。夏の甲子園をかけた群馬大会が今月8日、開幕しました。山際さんのようにはいきませんが、勝敗にかかわらず、練習を重ねてきた努力から生み出される人生とドラマを、少しでも多くの方にお伝えできればと願っています。(朝日新聞社前橋総局長 岡本 峰子)


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