朝日ぐんまって 朝日フォトコンテストコラム

コラム

総局長日記

何をなすかでなく[11月9日号]

 関西で勤めた20代半ばから5年ほど、お茶を習いました。京都で行きつけだったバーのマスターが先生で、生徒の多くは店で顔なじみ。流派とは一線を画す。茶道は堅苦しいと敬遠していた私も、抵抗なく参加できました。

 週1回の稽古のはずが月1回になることも多く、身に付いたとは言えません。ただ、教室は好きでした。沢水を引いた山中の庵。空調はなく、季節のうつろいを感じました。四季や暦にあわせて替わるお点前や道具。畳に擦れる衣、沸く釜の湯、ふくさをさばく音。静寂を楽しみました。

 茶道では部屋の入り方からお点前まで、細かく決まりがあります。覚えたつもりでも、仕事が不調だったり、悩みがあったりする日は、つまずく。「お点前はいつも同じだから、向き合う自分の心が表れる」。先生の言葉に合点しました。

 そんな感覚を、森下典子さんの著作「日日是好日」(新潮文庫)を読み、思い出しました。いても立ってもいられず翌日、同書が原作の映画を見に高崎へ。「まず形から」「頭で考えないで、自分の手を信じなさい」。9月に亡くなった樹木希林さん演じるお茶の先生の言葉が、私の先生と重なります。

 人生も一席も、一期一会。何をなすかでなく、いまを精いっぱい感じて生きることで十分――。原作や映画から伝わるメッセージです。「靴下でもシャツでも、最後は掃除道具として最後まで使い切る。人間も、十分生きて自分を使い切ったと思えることが、人間冥利に尽きるんじゃないかしら」。生前語った樹木さんの言葉とも通じ合いました。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

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上州日和

エモい![11月9日号]

 「伝統の踏襲は変革の連続」「各々が独自性を磨き高め合っていくしかない」「地域間競争ではなく地域間連携が大切」 先週号の取材中、渋川伊香保温泉協会の大森隆博会長が語った言葉の数々に何度も頷いてしまった。

 今、渋川伊香保では榛名山麓などを舞台にした人気カーアクション漫画「頭文字D」と様々なコラボ企画を立ち上げ、地域おこしに挑んでいる。協会も、今夏から旅館やホテルで「頭文字D」オリジナルグッズ付き宿泊プランの提供を始めた。海外からの予約も多く、インバウンド誘致に力を入れてきた伊香保温泉にとって大きな効果をもたらしている。

 漫画切手を制作した渋川市でも、先月からふるさと納税返礼品としての送付を開始。吉岡のおもちゃと人形自動車博物館も先月末、主人公の実家を屋外に再現したばかり。「頭文字D」を巡る地域の動きは活発だが、その先駆者といえるのが渋川でレーシングカフェ「ディーズガレージ」を営む岡田誠代表だ。

 ガレージには漫画関連の車や商品がズラリ。「頭文字Dの聖地である地元に車好きが集える場を作りたかった。漫画や車で地域を盛り上げたい」 岡田さんの描く未来は可能性にあふれ、聞いているこちらも元気になる。

 最近、SNS上で若者を中心に「エモい!」と言われている渋川伊香保。感情が揺さぶられた時に用いられる造語というが、地域というより活性化に関わる人たちこそが「エモい!」と実感した取材だった。(中島美江子)

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