朝日ぐんまって 朝日フォトコンテストコラム

コラム

総局長日記

フレディの渇望[12月14日号]

 エイズについて、初めて取材したのは1991年。男性宅を訪れました。男性は、治療に使った血液製剤でHIV(エイズウィルス)に感染。取材は匿名が条件でした。緊張した様子だった男性と母親は、出されたお茶や食事を遠慮せずいただく私をみて、途端に表情を緩めました。

 その時の切なさを、大ヒット中の映画「ボヘミアン・ラプソディ」を観て思い出しました。英国のロックバンド・クイーンを描いた作品は、才能あふれるボーカリスト、フレディ・マーキュリーの孤独と苦悩も浮き彫りにします。91年11月、エイズを公表した翌日に訃報が流れました。

 感染経路は限られるのに、世の視線と差別は厳しかった。国内初の患者確認は85年。異性間の性交渉で感染したとされる女性が87年に死亡すると、プライバシーまで暴かれました。欧米では著名人の感染や死が相次ぎ報じられました。

 約30年後の今、治療は大きく進歩しました。検査で早期に見つけて薬を飲み始めれば、普通に生活でき、エイズへの進行もパートナーへの2次感染も防げます。なのに、感染が分かった時点ですでにエイズ発症に至っている例が今も3割を占め、高止まりしています。

 早期発見を阻むのは、古いイメージや誤った知識による偏見と無関心です。福祉職男性が就職内定を取り消されたという今夏のニュース、感染者が透析や歯科治療を受けられる医療機関が少ないという現状に切なさが募ります。映画をみる人、音楽を愛する人たちに、フレディの渇望した「寛容」が広がることを願います。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

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上州日和

職 人[12月14日号]

 今秋、前橋のカネコ種苗ぐんまフラワーパークで、昭和をテーマに当時の生活用品や自動車などを展示する企画展が開かれた。その中で一際目に入ったのが映画看板。オードリー・ヘプバーンの美貌が際立つ「ローマの休日」、野性味あふれる三船敏郎の迫力ある殺陣を描いた「用心棒」…どの作品も生き生きとした役者の表情、特徴を捉え、色合いも鮮やかでその世界に惹き込まれていった。

 作品を描いたのは、映画全盛の昭和30年代に映画看板絵師として活躍した北村勝英さん(84=前橋)。映画館には飾られないが、当時の技法で描き続ける“現役”の絵師だ。絵具を作るために使う膠の香り漂う自宅には、これまで描いた作品がびっしり並ぶ。「年相応の格好だと絵も老けちゃうからね」と若々しい服装に軽妙な口調で思いを語ってくれた。

 私自身一度は新聞業界を離れ、建具職人の世界に飛び込んだこともあった。不器用さが仇となり1年余りで挫折したが、北村さんは80歳を超えた現在も精力的だ。映画と絵を心から愛し、追求する職人の生き方に脱帽する。

 来年4月に平成も終わり、昭和はさらに遠くなる。北村さんのような絵師の技術は受け継がれないのかもしれない。かといって、時代とともに移り変わることが悪いとも思わない。ただ、忘れ去るのではなく、思いや考えをすくい取り、活字で伝え残していくことが私たちの役割ではないかと感じる。言葉を紡ぐ“職人”を目指して精進したい。(林哲也)

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