世界遺産登録6周年
富岡製糸場と絹産業遺産群が世界遺産に登録されてから、今月25日で6周年を迎える。製糸場内では、大規模な保存整備工事を終えたばかりの国宝「西置繭所(にしおきまゆじょ)」が10月の正式開館を前に今月から先行公開を開始した。また、上州富岡駅前ではレンガ倉庫をリノベーションしたガイダンス施設「県立世界遺産センター」が、製糸場正門近くには民間器械製糸場の建物や資料などを一般公開する「旧韮塚製糸場」が、それぞれオープンした。まちのにぎわい創出へ向け、期待が寄せられる3施設を紹介する。 (上原道子)
国宝がギャラリーとホールに大変身!
国宝「西置繭所」
製糸場敷地の最奥部にある原料繭の貯蔵庫「西繭置所」は、1872(明治5)年築の木骨煉瓦造2階建てで、入口正面の「東置繭所」、中心部の「繰糸場」と並んで国宝に指定されている。「保存修理」「耐震補強」「活用」のため、2014年から大規模工事をスタート。今年4月、6年越しで完了した。
1階部分南側には、製糸場に収蔵される資料を中心とした常設展示室「ギャラリー」が誕生。北側の「多目的ホール」は200人収容可能な空間で、シンポジウムや展示会、コンサートなどに活用できる。
ギャラリーとホールは、内部に補強用の鉄骨を利用したガラス張りの建物が設置され、当時のままの建物内部を見学できる。担当者は、「壁や建具などには操業当時の痕跡があり建物の歴史を肌で感じられます。様々に活用してほしい」と期待を寄せる。
一方、横長の一続きになった2階では、官営当初期の繭の保存方法を再現。さらに、来場者自身のスマートフォンでダウンロードした専用アプリで聴ける音声ガイダンスも取り入れた。
10月からのグランドオープンに先駆け、6月30日まで先行公開中。1日5回、各回10人限定で事前予約優先。製糸場見学料が必要(一般1000円、大高生250円、小中学生150円)。問い合わせはまちづくり富岡(0274・67・0088)へ。
駅前にガイダンス施設「セカイト」誕生
県立世界遺産センター
世界遺産「富岡製糸場と絹産業遺産群」の魅力を紹介する県立世界遺産センター「世界を変える生糸(いと)の力研究所」(愛称「セカイト」)が6月1日、上信電鉄・上州富岡駅前に立つ富岡倉庫群の一角にオープンした。当初、3月27日にオープン予定だったが、コロナの影響で約2カ月遅れの開設となった。レンガ積み、2階建てのガイダンス施設で、富岡市役所新庁舎の設計者、隈研吾氏が改修設計に携わった。
館内では、高品質の生糸の大量生産に貢献した富岡製糸場、田島弥平旧宅(伊勢崎市)、高山社跡(藤岡市)、荒船風穴(下仁田町)のそれぞれの価値や現地での見どころ、絹産業の歴史・技術の発展などを分かりやすく紹介している。
巨大スクリーンで高精細なCGを活用した美しい映像を鑑賞できるシアターなど、デジタル技術を駆使した様々な仕掛けで、老若男女が楽しめるコンテンツを充実させた。
また、県内の大学などと連携し、世界遺産や絹産業、絹に関する歴史文化の研究にも積極的に取り組んでいくという。
高橋陽一センター長は、「ここを起点に、県内の世界遺産それぞれの現地へ実際に足を運んでほしい。また、市内の商店街とも連携し、まちなかのにぎわいの中心としても機能させていけたら」と意気込む。
なお、今月30日まではメールによる事前予約制(時間指定あり)。入場無料。同センター(0274・67・7821)。
来場者数回復のイトグチに
旧韮塚製糸場
富岡製糸場を模範として、明治初期に韮塚直次郎氏(1823~98年)が創業した民間器械製糸場の旧韮塚製糸場も、今月1日に予定より2カ月遅れて開所した。繰糸機を並べた跡などの遺構や当時の建物の大部分が残る貴重な建造物としてその歴史的価値が見直され、2017年度から市が保存整備を行い、今年3月に工事が完了した。
館内には、同製糸場を紹介するパネルや発掘調査で出土したレンガの展示に加え、観光案内コーナー、休憩所を設けた。また、床の一部をガラス張りにし、床下の構造がのぞけるような仕掛けもある。富岡製糸場のチケット販売も行う。
富岡製糸場の入場者数は、世界遺産登録となった2014年の133万7千人をピークに、昨年度44万2千人と徐々に減少し続けている。今春は、群馬の観光キャンペーンによる集客を期待していたが、新型コロナウイルスの影響で休館を余儀なくされた。新スポット誕生が、来場者数回復への「イトグチ」となることが期待される。