過去の取材で、お年寄りをケアする介護職から、深く傷ついた経験を度々聞きました。例えば、「本人のペースにあわせて食事介助したら、のろのろ仕事するなと怒られた」「本人が気になり困っている庭を片付けたら、契約外だと禁じられた」「時間通りに食事、おむつ交換、風呂、就寝。流れ作業で車いすを押して運んで、追い立てて。何のためにこの仕事に就いたんだろう」。悩んで精神的にダウンした友人もいます。
全国公開中の映画「ケアニン」は、そんな悩みとは対極にある介護拠点が舞台です。高齢者は家庭的な雰囲気のデイに通い、時に泊まり、自宅にヘルパーを派遣してもらえる。欠かせないのが、最期まで本人らしく過ごせるよう工夫し、手立てを考え、伴走するプロたち。資格に関係なく、誇りと愛と情熱を持ってケアする人=ケアニンという造語で表します。
映画は、21歳の新人介護職が、認知症状の重くなる女性とその家族と共に歩み、成長する物語。東京で今月あった試写会は、大ホールがケア人でいっぱいでした。モデルとなった拠点の代表で映画製作に協力した加藤忠相さん(42)の舞台挨拶には、共に並んだ監督や俳優に勝る拍手と歓声が贈られました。
「徘徊もスタッフが一緒なら散歩」「(本人が忘れても)僕が覚えてます」。シナリオもセリフの一つひとつも、加藤さんほか全国のケア人から聴いてつくられました。こんな介護拠点が近所にあれば利用したい、働きたい。自分たちでつくりたい。そんな思いが広がりそうです。群馬では7月1日からプレビ劇場(伊勢崎)で上映が始まります。(朝日新聞社前橋総局長 岡本 峰子)