「マルク・シャガール  ―愛と祈りと冒険と。8つの版画物語」

「マルク・シャガール展」 展示風景

シャガールの愛と祈りと冒険が詰まった版画を一堂に

今も世界で愛され続ける画家マルク・シャガール(1887~1985年)。その光と色彩あふれる絵画のイメージとは裏腹に、シャガールの人生は過酷なものでした。

ユダヤ人として若い頃から流浪生活を送り、1930年代にはナチス・ドイツによる迫害に苦しめられます。41年、フランス国籍を剥奪されたシャガール夫妻はきわどいタイミングでアメリカに亡命。44年、パリがナチスから開放されたニュースに歓喜しフランス帰還の準備をしていた矢先に、苦楽をともにしてきた愛妻ベラが急逝してしまいます。

悲しみに沈んだシャガールはすべてのキャンバスを壁に向けてしまい、何カ月も絵筆を握ることができませんでした。本展では、そんな激動の人生の中で手がけた2000点以上にも及ぶ版画作品の中から、代表的な8つの連作版画を紹介します。

銅版画『聖書』(105点)の見どころは、「偶像崇拝の禁止」の戒律をもつユダヤ教徒として、彼が聖典をどのように視覚化しているかという点です。たとえば「神による人間創造」の場面。カトリック教会では命を与える神の姿が描かれることが多いのですが、シャガールは「創造されたばかりのアダムを天使がエデンの園にデリバリーする場面」として表現しました。神を描くことのできない画家だからこその独創的な描写ではないでしょうか。

また、リトグラフ『ダフニスとクロエ』(42点)にはシャガールの真骨頂である色彩の魔法があふれ、彼の版画作品における最高傑作とも言われています。1枚につき約25もの色版を重ねているにもかかわらず、画面は濁ることなくピュアで鮮烈。少年と少女の瑞々しい初恋物語と相まって、いつまでも見ていたい魅力を発散しています。

シャガールの愛と祈りと冒険が詰まった版画作品279点を一堂にご紹介しています。ぜひお越しください。

 

高崎市美術館 学芸員
柴田純江 さん

大阪外国語大学イタリア語科卒業、金沢大学大学院修了。1998年より高崎市美術館に勤務。専門は西洋美術史。これまで、「アルフォンス・ミュシャ展」(2010年)「ルネ・ラリック展」(17年)「水野暁展」(18年)などを担当

■高崎市美術館(同市八島町110・27)■027・324・6125■3月29日まで■午前10時~午後6時(金曜日のみ午後8時まで)■月曜日および祝日の翌日休館■一般600円、大高生300円(中学生以下、65歳以上無料)■関連事業①スペシャル・ギャラリートーク「シャガールの祈りとは何だったのか」(3月1日午後2時~、同館展示室)=美術史研究者・大野陽子さんが、「祈りの絵画」としてのシャガールを宗教図像学から読み解く。参加無料だが要観覧料②学芸員によるギャラリートーク(2月24、3月15日各午後2時~、同館展示室)

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