様々な表情のこどもたちに会いに来て
彫刻家の丸尾康弘さんは、1956年に熊本県北部に位置する自然の豊かな山鹿市で生まれました。幼少の頃から美術に興味を持ち、様々な巨匠の作品に憧れ、彫刻と絵画の間を行ったり来たり……美術制作に対する思いを深めて行きました。進学先は、東京造形大学(1982年、彫刻科卒)。当時は、著名な具像彫刻家・佐藤忠良氏(1912~2011)が教壇に立っていました。
その元で学ぶことは、大いに意味のあることであったと思いますが、丸尾さんが学生時代を過ごした頃、国内の彫刻といえば抽象全盛期時代でした。学生時代の丸尾さんは、塑造や具象彫刻も制作していましたが、反発心や違和感からその頃は、抽象的な石彫作品が中心となったそうです。
大学卒業後は、1985年に群馬へ移り住み、家族と共に生きることの近くで創作活動を続けました。創作し続けることと生活することの両立の難しさを痛感し、抽象的な表現で創ることに対しての思いを模索していた中、「子どものおもちゃに」と考えて作った手に持てるほどの木彫りの動物が契機になったそうです。その時、子どもたちは、とても喜んでくれたそうで、その“純粋な喜び”が丸尾さんの創作意欲のモヤモヤをスーっと晴らしてくれたのでしょう。
素材は、石から木へと変化しましたが、一貫してあるテーマは「時間」。さらに、創作活動を続ける中でより明確になったのが「自然と人間の共生」。時に、うつむいた男、時には、身体をねじった女……そして、牙を生やしたこども。独特な世界観を木の持つ力と共存しながら、人間の姿を模して刻み続けています。
そして、今回テーマとなっている“こども”の創作は、ご自身のこどもが生まれたとき、孫ができたとき、そして数年前に不動明王の制作を依頼されたことよって生まれた“現代に生きるこどもたち”に対する思いと、3つの切っ掛けがあったそうです。
会場には、たくさんの子どもたちがいます。様々な表情の子どもを見ていると、これまでの自分の記憶に結びつき、懐かしさや愛おしさが心の中で起こり、今のこども達の未来に何ができるのであろうかと考えさせられます。
美術は、単純に美しさを感じることで心動かされ、その感動で完結できるときもありますが、美術の外側にある様々な状況と結びついたときに何かを生み出すこともあります。
木彫作品、平面作品で会場を構成しております。是非、丸尾さんが生みだした子どもたちへ会いにいらしてください。