おっきりこみ逆襲[2月17日号]

2月も下旬になると私の故郷・瀬戸内では、しょうゆとショウガの香りが各戸から立ち上ります。イカナゴのくぎ煮づくりです。関東でコウナゴ(小女子)と呼ぶ魚の稚魚を甘辛く炊いたごはんの友。家庭ごとに味付けがあり、ご近所や友人で交換しあう。早春の味です。
群馬の味は、焼きまんじゅう、おっきりこみでしょうか。農水省選定の「農山漁村の郷土料理百選」ではおっきりこみ、生芋こんにゃく料理です。ところが、群馬に転入して約10カ月、これらを勧められたことがありません。尋ねても「地味だから」「残り物を入れるだけだから」と謙遜され、会食では必ずマグロの刺し身を出されます。
県産食材といえば行政は「すき焼き」推し。確かに上州和牛も下仁田ネギもシラタキもおいしい。キノコ類も香り豊かで新鮮。でも、すき焼きは群馬県民のハレの食事ではないようで、話しても盛り上がりません。スーパーの精肉売り場も品ぞろえに乏しい。県民が熱愛を語らないグルメは、県外にも伝わりません。
と嘆いていたら、人気のご当地本「群馬の逆襲」の著者、木部克彦さんの「今夜も『おっきりこみ』」(言視舎)を紹介されました。主菜になりそうな肉や魚介も使い、季節にあった多彩なおっきりこみ料理のレシピと、「群馬の粉食文化を全国に誇ろう」という熱い想いが伝わりました。
おいしくて値段も手頃。地元で愛されているが、全国的な知名度はいま一つ。そんな郷土食を盛り上げ、地域を活性化しようという「B級グルメ」が広がって十年余。そろそろおっきりこみも、逆襲をかける時期かもしれません。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

掲載内容のコピーはできません。