まわり念仏から[9月14日号]

 毎月7日、嬬恋村の鎌原観音堂を訪れました。天明の浅間山噴火(1783年)から続くという「まわり念仏」を聞くためです。「人畜田畑家屋まで 皆泥海の下となり」。住民570人のうち477人を亡くした災害と復興の軌跡を詠む「和讃」を月2回、唱え継ぎます。

 200年以上もなぜ? 私の問いに、鎌原郷司さん(70)は「(土石なだれに)埋もれた上に再興した集落。先祖の上で生活させてもらっているという気持ちがある」。観音堂への石段を駆け上り、生き延びた93人から続く家系といいます。

 まわり念仏は、かつて集落の各戸が時計回りに担当し、今も掛け軸などを預かる当番があるといいます。春の彼岸には被災直後の祝言が由来の団子をつくり、噴火の起きた8月には供養祭。鎌原さんが会長を務める奉仕会は、観音堂の境内を毎日整え、訪問客を接待します。

 この夏、日本列島は相次いで災害に見舞われ、多くの命が奪われました。常に課題となるのは、時空を超えて危機感を共有する意識です。広島では、4年前の土砂災害に似た地形の宅地なのに、避難が遅れた。岡山倉敷の真備町地区は、過去何度も水害に遭いハザードマップに記載もあった。災害後の報道に悔しさが募ります。

 災害が少ないと言われる群馬ですが、火山の歴史を学んで認識を改めました。赤城山麓では、地震による地割れや土砂崩れの形跡もあるといいます。「想定外のことが起きるのが災害」。専門家の言葉にはっとしました。まず身を守るために、どう動くか。そして次に……。私の防災イメトレです。

(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

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