「肩の力を抜いて『自分基準』を大切にして夢中になれるものを見つけて」
「夢ノート」シリーズ、「今日からできるなりたい自分になる100の方法」など数々の著書を通して、夢を持って毎日を明るく生きることの大切さを伝える中山庸子さん。4月に「50歳からのお楽しみ生活」(海竜社)、5月に「わたしの取扱説明書(トリセツ)ノート」(原書房)、来月に「もういちど夢をかなえるヒント」(創元社)を発行するなど精力的に執筆活動を展開する。近著「ありがとうノートのつくり方」(さくら舎)では老いていく自分と向き合うなかで生まれた、「夢ノート」の進化版とも言える「ありがとうノート」の作り方を紹介。60歳を超えて益々輝きを増し続けているベストセラー作家に、新刊「50歳からのお楽しみ生活」や「ありがとうノート」に込めた思い、シニアライフをより豊かに生きるコツを聞いた。
【自分基準を大切に】
Q「50歳から‐」シリーズは、これまで6冊出版されています
「手紙」「マナー」「旅」などをテーマに書いていますが、自分が50代を振り返ってこの年代で始めておくと60代はもっと楽しくなるだろうなということをお伝えしています。50代は60、70代に向けて色々準備できる期間。新刊では7つの「お楽しみ生活」を紹介していますが、「自分のためのお弁当を作る」「お気に入りの写真や言葉をスクラップする」など誰でも取り組みやすいものを選びました。
Q「お楽しみ生活」を送る上で大切にしていることは
団塊より少し下の我々は比較的、何にでも果敢に取り組んできた世代。右肩上がりの時代と共に成長してきたので基本、元気でポジティブですが、歳を取ってくるとシンドイことも多くなってきますよね。そんな時、全てを諦めるのではなく無駄なことを減らしていく、苦手克服に注いでいたエネルギーを好きなことにシフトしていく、ことを心掛けています。「自分の期待値」に届かない現実にイライラするのではなく、したいこと、好きなことを深めていくほうがずっと建設的です。
Q自分独自の「お楽しみ生活」を見つけるコツは
私と同年代の女性の場合、結婚していたら基本、食事やお弁当、掃除に洗濯と1日の多くを家族のために費やしてきました。60代は妻や母という役割や様々な義務感から、そろそろ自由になって良い。世間体を気にして見栄を張ったり誰かを羨むのではなく、肩の力を抜いて「自分基準」を大切にして夢中になれるものを見つけて下さい。私の場合、テニスや刺繍がそうですが、どちらも無心になれるし嫌なことも忘れられます。仕事や生活にメリハリができ良いリフレッシュになっていますね。
【「ひとり時間」を作る】
Q昨年、「ありがとうノート」を考案されました
60歳を過ぎた頃から、「シンプルに始末よく暮らしたい」という思いと、「老いていく自分とどう付き合っていくか」に意識が向くようになりました。50代までのように「加えることで充実させる」より、手放す解放感やサイズダウンすることで得られる「引き算の快適さ」に目が向くようになったのです。「夢ノート」とは違う、今の自分のニーズに合ったノートを作ってみようかなと思い始めていた時、高齢の父を実家で看取るという経験をしました。父はエンディングノートこそ書きませんでしたが、一緒に暮らす母に「自宅で最期を迎えたい」と話していたようです。私も誰かにきちんと託せるものを残そうと考えるようになりました。ただ、「エンディングノート」という言葉の響きがあまり好きではなく、あれこれ迷った末に「ありがとうノート」という名前に行きつきました。家族や友人だけでなく、自分にも感謝しながら暮らしたい、そして人生の幕を下ろすその時も「ありがとう」と言える自分でありたいと思ったからです。
Qどんなことを書くのでしょう
「こうでなきゃ」という縛りはありません。ただ、誰かに託すのを前提に書くものなので私の場合、最初に「相手への感謝の気持ち」を伝える欄を作りました。次に「自分データ」や「気がかりなことリスト」、例えば「処分したいもの」「緊急連絡先」などを書き込みます。今の自分が無理なく書けること、例えば終末医療についても具体的なイメージが湧かないなら「過度の延命治療はしたくない」程度で大丈夫。どこから過度になるかはその時の状況や年齢によって違うでしょうから、1年を区切りに更新していけるスタイルにしています。そして、一番重視したいのは「したいことリスト」。歳を取ると介護や病気などネガティブな問題が出てきますが、それらの心配事がなくなることは永遠にありません。ならば、「今したいこと」「自分が好きなこと」に気持ちを持っていく方が良い。実行する嬉しさと共に、新たな楽しみを見つけて書き加えていく喜びももたらしてくれますよ。
Qありがとうノートを書くメリットや意義は
今、自分が抱えている問題や不安を文字にすることで自分自身の思考がシンプルになります。頭の中が整理されると、限られた時間の中で何をすべきか、何がしたいか、ひいては人生で大切なものがクリアになっていく。手書きなので能トレにもなり一石二鳥です。
Q近著「ありがとうノート‐」で「ひとり力」の大事さを説いています
「京都路地巡り」「ヨガ体験入学」など、私の「これからしたいこと」の多くは1人ならすぐに出来ることばかり。誰かと一緒に何かをする喜びも大きいですが、1人だと時間調整の手間もないので未知のことに飛び込みやすくなります。だから、特別な時だけでなく普段、家族といる時も「ひとり時間」を作るようにしています。孤立するのではなく1人になることで自分を解放してあげるという感じ。今まで頑張ってきた自分を丁寧に大切にしていきたいですね。
【緩めの「自画自賛」を】
Q「始末よく暮らす」ために心掛けていることは
自分自身を面白がる気持ちを忘れないようにしています。歳を取ってくると、ほっとけば愚痴と言い訳だけの人生になりがちですが、それではつまらない。作家の田辺聖子さんが、「年を重ねて少なくなった手札で勝負する。これがなかなか面白い」とおっしゃっていましたが、私も少ない手札の中でも大きな役が作れるよう、自分なりに創意工夫しながら毎日過ごすようにしています。老いていくことは悪いことばかりではありません。「その齢なのに若い」「歳なのに色々出来る」とか下駄を履かせてもらえることが多くなり、凄く生きやすくなりますね。
Q60代を生き生き過ごすために日頃から取り入れている習慣は
根詰めて仕事をしていると息を止めてしまうことがあるので、気功教室で習った呼吸法を意識的にするようにしています。胸を張り肩を落とし、4つ吸って2つ止めて8でゆっくり吐く。これをするのとしないのでは疲れの取れ方が全然違います。あと、今日あった良いことを10個浮かべながら寝るようにしています。「ご飯がおいしかった」「洗濯物が良く乾いた」など何でも構いません。気分良く1日を終えることができますよ。
Qシニア世代に向けて豊かな人生を送るコツを教えて下さい
緩めの「自画自賛」をオススメします。どんなに多くの人から「あなた素敵ね」と言われても自分が納得しなかったら意味ない。今、「いいね文化」ですが、100人からの「いいね」を求めて身の丈以上のことをする代わりに、自分で自分に「いいね」をあげれば良い。高望みせずに自分を認め、良い気持ちにさせてあげれば、毎日の生活はより暮らしやすく楽しくなるのではないでしょうか。
文・撮影 中島美江子