ストリートファッションのカリスマ
ファッションに限定せず、これからも地球全部を相手に色々なことをやっていきたいですね
【本当にうれしかった】
ミッキーマウスからマリリン・モンロー、スーパーマンまで-衣料品店ユニクロに、アニメキャラクターやハリウッド女優、映画ヒーローなどがデザインされた約1000アイテムが並ぶ。バリエーションに富んだTシャツには多くの人が群がり、売場でも一際存在感を放っている。これらの全商品をディレクションした。90~00年代のストリートファッションを牽引してきたカリスマで、DJや音楽プロデューサーなど多くの顔を持つ。ユニクロのTシャツブランド「UT」のクリエイティブ・ディレクターに就任したのは昨秋。同社の柳井正会長から直接オファーを受けた。「本当にうれしかったです。僕はファッション界のメインストリームにいた訳ではないし、賞を取ったこともない。雑草魂そのものでやってきましたから柳井会長に声をかけて頂き、ようやくきちんとした評価をもらえた気がしました」
【若者から熱狂的な支持】
絹の街・前橋に生まれる。ファッションに目覚めたのは中学生の頃。高校に入るとヒップホップにものめり込んでいく。文化服装学院在学中にスタイリストやDJ、ライターの活動をスタート。卒業後、デザイナー高橋盾さん(桐生出身)と原宿にアパレルショップ「NOWHERE」をオープンし、自社ブランド「A BATHING APER」(通称エイプ)も立ち上げた。ストリートやヒップホップのテイストを打ち出したエイプは若者から熱狂的な支持を集める。店頭には連日長蛇の列。ドラマで木村拓哉がエイプのダウンジャケットを着用し人気が爆発した。「自分たちが良いと思ってやったことが時代と噛み合った。本当にまぐれとしか言いようがない。特にマーケティングをしていた訳でもないし、逆に言えば世の中のトレンドとは全く関係のない物作りをしていましたね」
【もう一度やりたいように】
2000年代に入ってもエイプの勢いは止まらない。アメリカやイギリスに出店。さらに音楽プロデューサー兼ミュージシャンのファレル・ウイリアムスとアパレルブランドを創立し、デザイナーのマーク・ジェイコブスとルイ・ヴィトンの商品をコラボレーションするなど活躍の場を世界へと広げていく。「海外進出の夢はずっと持ち続けていた。世界でも自分が良いと思うものを全面に押し出していきましたね」 華々しいキャリアを築く一方、クリエイションを大切にしたいという思いと顧客が望むものを作っていくという自社ブランドの方針に大きな乖離が生じてくる。11年、エイプを売却。13年に同社のクリエイティブ・ディレクターも退く。「会社が大きくなるにつれ、色んな人の思惑が重なりコントロール不能になった。何のために仕事をしているのか分からなくなってしまって。もう一度原点に戻り、自分がやりたいようにするためフリーになる決断をしました」
【小手先ではない変革】
巨大ブランドからの解放を待っていたかのように舞い込んできたのが、グローバル企業からの依頼だった。ユニクロのクリエイティブ・ディレクターに就いてからは膨大なコンテンツの中からプリント柄を厳選、ロゴの位置や首周りなどデザインクオリティーを高めると共にボディの刷新にも取り組んだ。使う糸を太くし両脇に縫い目のない丸胴仕様にすることで、着心地や通気性の良さを向上。着れば着るほど味が出てくるように仕上げた。「柳井会長から託されたのは小手先ではない変革。一から作り直す必要があった。目指したのはアメリカンスタイル。でも僕のブランドではなくUTブランドにしなければいけない。どうすれば沢山の人達に良いと思ってもらえるか。難しいチャレンジでしたが刺激的で本当に楽しかったです」
ユニクロと並行し今冬、アディダス・オリジナルスと長期パートナーシップを結ぶ。14年秋冬からジャージなどコラボレーション・コレクションを世界各国で発表していく。
【かなり濃かった四半世紀】
現在、「未来は過去にある」をテーマに掲げた新ブランド「HUMAN MADE」のディレクションやヒップホップグループ「TERIYAKI BOYZR
」のプロデュース、カフェ運営など多方面で活躍する。今月、監督を務めたファレルの日本版ミュージックビデオ「Happy」が公開されたばかり。同映像にはグラミー4冠を受賞したファレルや久保田利伸ら豪華アーティストが出演している。
今年デビュー25周年。浮き沈みの激しいファッション界にあって第一線を走り続けていられるのは、過去の栄光に安住せず絶えず新たなモノづくりに挑んできたからだ。世界中を飛び回る一方、県内の音楽イベントに年4~5回出演し、今秋にはアーツ前橋の企画展に参加する予定。地元での活動にも力を入れる。「この四半世紀は、かなり濃かった。一貫してやってきたのは自分らしいライフスタイルの提案。ファッションに限定せず、これからも地球全部を相手に色々なことをやっていきたいですね」 25年の節目を超え、カリスマは更なる高みを目指し突き進んでいく。
文:中島 美江子
写真:高山 昌典