コラボレーション社長 山﨑 健一 さん

「おいしく焼くには、たたいたりしないでひたすら待つことです(笑)」と山崎社長=伊勢崎宮子店

「KANSAI」の味、全国区に

「子供たちがワイワイできる居場所、たまり場を作ってあげたい」

 

【相次いで2店舗を出店】

県内や埼玉、銀座にお好み焼き・もんじゃ専門店「KANSAI」を展開する。今夏、伊勢崎宮子店と桐生店を相次いでオープンさせた。伊勢崎2店舗目の宮子店はシネコン「ムービックス伊勢崎」向かいという立地を生かし、店内をハリウッド映画のプロップ(小道具)で華やかに飾る。ブラッド・ピットやジャッキー・チェンが着用した衣装、ジョン・トラボルタが使った銃などレアコレクションは40点以上。「全て劇中に登場した1点モノ。映画館帰りに本物の小道具があればテンション上がりますよね(笑)」 一方、桐生初出店となる桐生店は和を基調とした落ち着いた雰囲気。「家族や仲間同士がゆっくりくつろげるように」と、個室を多くしプライベート空間を充実させた。
新規2店舗だけでなく、同社は1店1店のコンセプトや内装をすべて変えている。例えば、埼玉上尾今泉店にはパリをイメージした凱旋門を作り、前橋野中店にはイルカやペンギンなど海をモチーフにしたオブジェを置くといった具合。テーマはバラバラだが、共通するのは「サプライズ」だ。「外食の楽しさは非日常感やワクワク感。生みの苦しみはあるが、全店同じじゃつまらない。疲れていたり嫌なことあっても、お店に入ったら全部忘れてしまうような空間作りを目指している」

【銀座で群馬の食を発信】

小学高学年の頃から、「将来は社長になる」と決めていた。高校卒業後、会社員として事務から営業、店舗開発まで様々な仕事を経験。33歳で飲食関連の会社を辞め太田に1号店を開く。当時、流行っていたのは焼き肉や回転ずし、とんかつ。「大型チェーン店がなく自分でも出来る専門店は何か」―考え抜いた末に辿りついたのがお好み焼きだった。開店前、大阪を2泊3日かけて巡り同地で出合った理想のお好み焼きを更にバージョンアップさせるため粉の配合を独自に研究。1年かけて納得の味に仕上げた。「関西風お好み焼きへのリスペクトを込めて、店名を『かんさい』にしました」
1号店立ち上げから2年後の99年に会社を設立。以後、1年に最低1店ペースで出店を続け、現在18まで店舗網を拡大。昨夏は銀座中央通りへの初進出も果たした。「銀座店では上州麦豚や上州牛、県産野菜、川場地ビールなど県内のおいしいモノをたくさん提供している。群馬の食の魅力を積極的に発信し、ブランド力アップに貢献したい」

【日々、アイデアを磨く】

成長を続ける理由の一つは、味へのこだわりとメニューの豊富さ斬新さにある。野菜はほぼ県産で、ヨード卵光と国産豚を使用。粉は0・1㌘単位で配合し、ダシ汁を取るのに丸3日かける。一方、メニューはお好み焼きもんじゃはもちろん、サイドメニューや限定メニューも実に多彩。年2回のグランドメニュー変更時には社長自らが新商品を考案。ダシ汁で食べる和風お好み焼き、クリスピー生地にアツアツの具を載せるマンジャモンジャピッツァ、ジャガイモを使ったパリ風ビストロもんじゃなど数々の商品を生み出してきた。「どれも思い付き。ただ、外国料理の本を読んだり話題のお店を食べ歩くなどアイデアを磨くためのインプットは日々欠かさないですね」
味や種類だけでなく、お好み焼きが持つ独特の食文化も幅広い層に支持される要因の一つだ。同社では銀座店を除き、客自らが鉄板で焼くスタイルをあえて取り入れている。「共同作業で会話も弾むし心理的距離も縮まる。それに、自分で作ったモノっておいしいでしょ(笑)」
とはいえ、経営は順調な時ばかりではない。7店目で大きな壁に突き当たる。今までにないレストランバーで勝負を賭けたところ大赤字。改装を試みるも客足は伸びず2年ももたなかった。「格好ばかりに捕らわれていたし、立地と客層にズレがありすぎた。どんな店でも成功すると思ったら大間違い。それからはお好み焼きもんじゃ一筋です(苦笑)」

【豊かな食文化を次世代に】

家族や仲間同士が鉄板を囲み、楽しく食事と会話が出来る店作りを進める。震災直後こそ客数は落ちたものの、短期間で回復に成功したのは同社が掲げるコンセプトとお客のニーズが合致したからにほかならない。数々の特典が受けられる会員数は現在7000人を超す。客層は幅広いが、特に子供たちが気軽に来店できるよう心を配る。常時100円もんじゃを提供し、ソフトクリーム食べ放題のドリンクバーは平日190円。300円もあれば何時間でもノンビリできる。「子供たちがワイワイできる居場所、たまり場を作ってあげたい。豊かな食文化を次世代に伝える役割も感じています」
今秋、全国有名コンビニ2社の約2200店舗で、「KANSAI」監修の「お好み焼き」が販売される予定だ。1都2県でしか食べられなかった味が、遂に全国区になる。更に今後、店舗のない館林や都内2店舗目の出店も計画中。「KANSAI」の快進撃はしばらく止まりそうにない。

文:中島 美江子
写真:野本 浩一郎

【プロフィル】Kenichi Yamazaki
64年前橋生まれ。伊勢崎商業高校卒業後、流通、製造、販売、外食産業など様々な業種を経験。97年に脱サラし太田に1号店を開く。99年に「コラボレーション」(伊勢崎)を設立。現在、県内に11、埼玉に6、東京・銀座に1、計18店舗を展開する。伊勢崎在住。

 

〜山﨑氏へ10の質問〜

食べ始めると、とまらなくなります(笑)

―家族構成は

母親と妻と息子2人。小さい頃は仕事が忙しくてあまり構ってやれなかったが、最近は大学1年と高校1年の息子と学校のことや進学、仕事などについて良く話しをしますね。

―習慣

その1、朝起きると自宅と会社の神棚に、それぞれ榊と水をあげます。
その2、ヘルニア持ちなので毎朝、腹筋背筋を各100回ずつします。サボると歩けなくなっちゃうので(苦笑)。

―尊敬する人は

基本的に生きている経営者。中でも京セラやKDDIの創業者であり、現在、日本航空の会長を務める稲盛和夫さんは本当にスゴイ方だと思います。稲盛さんの著者も良く読みますが、彼の力強い言葉に今まで何度も救われてきました。

―社長でなかったら

何に対してものめり込むタイプなので、こだわりを持った職人になっていたかもしれませんね。

―長所短所は

長所は人の好き嫌いがほとんどない。短所は頼まれると断れないところ。

―休日の過ごし方

休みは週1日ですが、家でのんびり読書をしたり、妻とショッピングに出掛けたりしています。

―趣味は

食べ歩き。趣味というか仕事というか(苦笑)。雑誌やテレビなどで気になった店には必ず行き、味を確かめないと気が済まない。

―好きな食べ物は

和食全般。最近、イギリスに行く機会があり現地で色々食べたが、口に合う合わない以前に味がない(苦笑)。和食のおいしさ、日本人の食文化の豊かさを改めて実感した。

―お好み焼きともんじゃ焼きどちらが好き

もんじゃ焼き。自分の店で一番好きなのはベビースターカレーチーズもんじゃ=写真。食べ始めるととまらなくなります(笑)。

―お酒

ビールも日本酒もウイスキーも何でも飲む。最近のお気に入りは芋焼酎「富乃宝山」と川場の地ビール。

 

取材後記
「やりたいと思ったことは誰に何と言われようとやりますよ(笑)」 言葉の端々に強い意志がにじむ。とはいえワンマン社長という感じはしない。同社のプロデュースを担うマザーゲイトの柳井実社長いわく、「とにかく誠実でズルくない人。目先の損得勘定を超えた仕事をしている」 それは、人と人との絆を大切にする店作りからしても値段設定から見ても一目瞭然だ。
取材後、慣れた手付きでお好み焼きを焼いてくれた。外はカリカリ中はフワフワ。おいしかった。来月以降、桐生市などが作る「イクメン・プロジェクト推進チーム」と協働し、お好み焼きもんじゃ焼き方教室を開くという。「お父さんの地位向上のお手伝いが出来れば」と満面の笑顔。経営的手腕と人間的魅力を兼ね備えた人である

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