メガネで日本一、世界一に
「世界のメガネを変えた会社として、歴史に名を刻みたいと思っています」
【機能性メガネで社会貢献】
「メガネ業界のユニクロ」と称されて久しい。現在、国内外で130のメガネ店「J!NS」(ジンズ)と25の服飾雑貨店を展開する。9月には看板商品の超軽量メガネ「エア・フレーム」第5弾を発売したばかり。女優の蒼井優と井上陽水の名曲「夢の中へ」を起用したCMも、まだ記憶に新しい。
ほぼ同時期にパソコンやドライアイ専用メガネ、今月からはランニングやサイクリング専用サングラスを立て続けに発表。これらの機能性メガネは、マーケティング専門誌「日経消費ウオッチャー」の新商品ランキングで3位に選ばれるなど、高い評価を得ている。「特にパソコン用メガネの反響は大きく、沢山のお礼メールや手紙が寄せられている。商品を通して社会貢献出来ている実感があり、本当にうれしいですね」
【新しいマーケットを確信】
3人兄弟の末っ子。少年時代、近所の利根川で釣りをしたり昆虫採集に明け暮れる。起業への夢は高校時代から抱いていた。「落ちこぼれで有名大学には行けそうもない。ならば自分で商売をしようと(苦笑)」 卒業後、地元の信用金庫に4年半勤め転職。1年後、24歳で服飾雑貨製造卸会社を興す。資金繰りに行き詰るなど多くの失敗と成功を繰り返す中で、「良いことは長続きしないし、好調の時に種をまいておかないと次がない」ことを学んだ。
01年、服飾雑貨からメガネ事業へと軸足を移す。転機は00年の韓国出張。日本で3万円するメガネが3000円で売られていた。帰国後、国内の流通を調べると製造から販売に至る各社が利益を得るため、客単価が高くなっていることに気付く。「当時、フリースが大ヒットしていたユニクロのように、企画、製造、販売まで自社で行うSPA方式ならメガネを安く提供でき、新しいマーケットを作れると確信した」
【経営を根っこから見直す】
01年に1号店を福岡に出す。低価格でありながら品質・デザイン性に優れたメガネは大反響を呼ぶ。以後、代官山、京都、神戸、前橋と出店、06年には上場も果たす。トントン拍子。と思いきや07、08年と2期連続最終赤字に転落。「慢心しちゃったんですね。価格や商品など枝葉の部分を改善したが、芯がないからどうにもならなかった」
そんな時、知人を介してユニクロの柳井正会長と会う機会を得る。08年のクリスマスイブ、面談は30分足らず。「御社の事業価値は何か?」 こう問われ返答に窮した田中さんに、柳井会長は「ビジョンや志が無いならビジネスはやめた方が良い」とバッサリ。ショックで体調を崩すも、これを機に経営を根本から見直す決断をする。年明け、役員全員で合宿し喧々諤々の議論を重ねた。「そこで事業価値を『メガネを掛ける全ての人に良く見える×良く魅せるメガネを市場最低・最適価格で、新機能・新デザインを継続的に提供する』と決めたのです」
【やるべき事が見えてくる】
確固たる信念の下、09年5月に「レンズ追加料金0円」という業界初の価格体系(4990円〜)を確立。同9月には店名をジンズに統一し、「エア・フレーム」を発売。売上全体の10%を広告宣伝費に投入するなど大勝負に出る。「私は軽い男です」—翌10年にはエッジの効いたコピーと人気俳優オダギリジョーらを起用したCMで知名度を一気に上げた。「ロゴも商品も店舗も全て見直した。経営の根っこが決まると色んなチャレンジが怖くなくなり次にやるべきことが見えてくる」
以来、オンラインショップの開設やチタンフレームの発売、アニメ「ワンピース」とのコラボメガネ販売など次々と新戦略を打ち出し、メガネ業界進出から僅か10年で業界トップクラスの年間販売数(約230万本)を売り上げるまでに急成長。「例えばアイフォンが携帯電話を変えたように、我々もメガネ業態や価格や機能など全ての常識を突き破り新しい価値を創造していきたい」。
【マーケット1兆円計画】
同社が今、最も力を入れているのがパソコンやスポーツなどライフスタイルに合った機能性メガネの提案だ。「市場は4000億円と縮小傾向だが、それは単に視力補正ツールとして見た場合。ディスプレイや紫外線から『眼を守る』という新機能を提供し、視力の良い人も取り込めば市場はもっと広がる。我々はこれをマーケット1兆円計画と呼んでいるが、10年以内には実現させたい」
11年8月期売上高(約146億円)と経常利益(約10億5千万円)共に上場以来最高を更新した同社が次に種をまくのは海外。既に中国に3店を展開しているが年明け早々、中国最大の複合ビル(上海)に旗艦店を出店。海外進出を本格化させ5年間で海外100店舗体制にする計画だ。「5年後に売上を1000億円にしたい。販売数、売上共に日本一、世界一を目指し世界のメガネを変えた会社として歴史に名を刻みたいと思っています」 機能性メガネ、海外という新たな突破口を得て次なるステージへと踏み出した同社。そのチャレンジングスピリットは留まるところを知らない。
文:中島 美江子
写真:木暮 伸也
〜田中氏へ10の質問〜
高校までは勉強なんて大嫌いでした(笑)
―尊敬する人は?
ユニクロの柳井正会長兼社長はもちろん、ソフトバンクの孫正義社長やHISの澤田秀雄会長、日本電産の永守重信社長などいっぱいいます。全員がチャレンジングな経営者ですね。
—理想のリーダー像は
明確なビジョンがあった上で、決断力、実行力、責任感が備わっている人物。
—座右の銘は
「人間万事塞翁が馬」。悪いことがあっても何か良いことの前触れだと思い、逆境を楽観的に捉えるようにしている。逆に調子が良い時は慎重になれよという感じですね。人生はサインカーブのようなものだと。
—今、やりたいことは?
マーケティングでも何でもいいから、とにかく勉強したい。ここ数年、本も読めないくらい疲れていたが最近、ようやく読書をする余裕が出てきた。今、向学心に燃えてます。高校までは勉強なんて大嫌いでしたけど(笑)。
—長所短所は
長所でもあり短所でもあるが結構、鈍なところ。人の気持ちとか全然、分からなかったりしますから(苦笑)。でも、分かってしまうと決断できないこともあるので重要な部分かもしれない。鋭すぎると社員も安心して働けないし(笑)。
—愛用のメガネは?
最新の「エア・フレーム」シリーズで、色は黒で形はスクエア型=写真。老眼用、パソコン用、サングラスと使い分けていて、全部で35本くらい持っている。ほとんど自社のメガネですが他社のものもありますよ(笑)。
—家族構成は
妻と長男、長女の4人家族。家ではほとんど仕事の話はしない。自分で言うのも何ですが、結構、仲は良いですよ。
—好きな食べ物・酒は?
すしと日本酒。水芭蕉など、群馬もおいしい地酒が沢山ありますよね。
—群馬のお気に入りは?
前橋市住吉町の定食屋「松葉屋」。焼きそばが大好きです。あと、市内を流れる広瀬川も良いですね。
—夢は
やはり、メガネを変えた会社として、何か社会に足跡を残せればいいかなと思っています。