富岡が生んだエンターテイナー
製糸場を全国に広めるスポークスマンとしてまだまだ大暴れしますよ
【言葉にならないくらい嬉しい】
「握手して下さい」「赤飯あるから食べてって」−6月21日、「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界文化遺産に決定する数時間前、富岡製糸場へ続く城町通りを歩いていると観光客や商店主から次々と声がかかる。「こんちは、ありがとね。帰りに寄らせてもらうよ」 郷里のスターは道行く人に笑顔で手を振り、気さくにサインや記念撮影に応じていった。この日と前日の2日間、富岡市は歴史的瞬間を祝うためパブリックビューイングやパレード、祝賀会を開催。09年から富岡市ふるさと大使を務める団さんは両日とも出席し、登録決定の瞬間を市民と共に祝った。「小さい頃、よく繭倉庫で隠れんぼしていた。遊び場だった製糸場がまさか世界遺産になるとは。言葉にならないくらい嬉しいです」
【幼少時から目立ちたがり屋】
富岡製糸場近くで漬物や乾物を扱う商家に生まれた。7人兄弟の末っ子。歌舞音曲を愛する両親のもとで育つ。人前で歌ったり、踊ったり、幼少時から目立ちたがり屋だった。「みんなを笑わせるのが楽しくって。『あんたは本当にひょうきんものだねえ』ってよく人に言われてましたよ」中学に入ると芸能界への憧れを強く抱くようになる。高校在学中、TBS「歌まね読本」に出演し優勝。「歌い手にならないか」 番組終了後、歌手の古賀政男氏本人から直々に口説かれ夢が一気に現実化する。「あの古賀先生に言われたもんだからもうビックリ。よし、これで俺は行けるぞと舞い上がっちゃいました」
【師の言葉を胸に精進】
古賀氏の内弟子になり礼儀作法から歌唱法まで、あらゆることを吸収していく。師から幾度となく聞かされ、心に深く刻まれた言葉がある。「『この世界での成功は運が大きく左右するが、運をつかむのはお前の努力次第。棚からぼた餅はないのだから頑張りなさいよ』と。この言葉を胸に一心不乱に精進しました」
66年「あいつにゃあいつの夢がある」でレコードデビューし、同年のレコード大賞新人賞にノミネート。先輩歌手の前座を務めたり地方のクラブ回りをしながら実力と知名度を高めていった。モノマネや司会もこなすステージは関係者からは批判を、お客からは大喝采を浴びる。「当時、歌手といえば映画俳優と並ぶ芸能界の花形スター。それがモノマネするなんてありえなかった。でも、受けるもんだからやめられない(笑)。僕としてはみんなが喜んでくれるなら何でも良かったんですよ」
【お茶の間の人気者に】
70年以降はライブ活動に加えバラエティー番組やドラマ、CM、舞台、ラジオなど多方面で活躍。明るく陽気なキャラで瞬く間にお茶の間の人気者になる。超多忙な日々を送る中、赤塚不二夫やタモリらと毎晩飲み明かし次々と新ネタを生み出していった。「徹子の部屋」に6回、タモリが司会を務めた「今夜は最高」に最多出演。美空ひばりや坂上二郎、所ジョージ、和田アキ子らと共演し唯一無二の存在感を発揮する。「ひばりさんの前で片岡千恵蔵のモノマネをしたら、『あら、お上手ね』って言われて。あの時は感動しましたね」
【全てのジャンルで一流に】
歌手としての実力は折り紙つき。永六輔、フランク・シナトラ、渥美清、五木ひろし、田中邦衛などモノマネのレパートリーは50人を超える。加えて漫談や声優、俳優、司会など何でもこなす。多芸多才のエンターテイナーかつ本格的なボードビリアンとして芸能界の中で確固としたポジションを築き上げた。「便利屋とも言えますが、全てのジャンルで一流になる努力をしてきた。引き出しがたくさんあったお陰で、どんなお客さんを前にしても動じないし笑わせる自信がありますよ」
【絶対に手を抜かない】
仕事をする上で大切にしていることがある。それはギャラの高低やイベントの大小などに限らず、絶対手を抜かず最高のパフォーマンスを提供すること。持ちネタを次々と繰り出し、笑いの渦を巻き起こすまで徹底的にやるのがステージ上での美学だ。そのための努力は日々欠かせない。「絶えず面白いことを探している。とにかく人に会うことが大事。人様はネタの宝庫ですから。24時間仕事中といったら大げさですが、人生すべからくネタ尽くしですよ」
【俺は現役だぞ】
現在、ライブを中心にテレビ・ラジオ出演や執筆活動、福祉施設慰問などを行っている。今年古希を迎えた。年齢を重ねるごとに芸の円熟味が増している。それは、「俺は現役だぞ」という強烈な自負心があるからに他ならない。来夏はデビュー50年の記念イヤーに突入する。富岡製糸場が世界遺産になったこともあり、芸能活動を更に加速させるつもりだ。「古き良き昭和を伝えるエンターテイナーとして、製糸場を全国に広めるスポークスマンとしてまだまだ大暴れしますよ」
大きな身振り手振りで表情豊かに熱弁する姿は、まさにエンターテイナー。これからもファンのために、郷里・富岡のために歌声と笑いを届けてくれるだろう。
文・写真/中島美江子