フリーアナウンサー、気象予報士  関口 奈美 さん

「教育学部の英語英文学科を卒業し、英語の教員免許を持っているのに英語が話せないんです。日本の英語教育にもアクションを起こしたいですね」と語る関口さん(ボストン)

「 群馬でも災害の可能性はあるという危機意識をもって 」

気象予報士としてNHKのニュース番組で気象情報を担当していた前橋市出身のフリーアナウンサー関口奈美さんは、今年1月から夫と共にアメリカのマサチューセッツ州ボストンで暮らしている。2011年3月11日の東日本大震災から今年で10年。防災士資格も持つ関口さんに、地震や気象災害に対する備えや天気予報の活用の仕方、群馬県民の災害に対する備え方などについて聞いた。(2月25日ZOOMによるインタビュー)

気象予報士に挑戦

― なぜ気象予報士になろうと思ったのでしょう?
大卒後にNHK前橋放送局に就職。ほかのキャスターはスポーツ、音楽、朗読、語学など得意分野を持っていましたが、私には何もなくて。テレビ業界で仕事するからには何か「強み」が欲しかったのです。そんな中、東毛で竜巻が起こりました。NHKで防災報道に力を入れていることもあり、まずは気象予報士を目指すことにしたのです。

仕事をしながらの受験勉強は大変でした。天気図などのほかにも計算問題や法律などを勉強しました。微分積分が出てきた時は、高校時代にもっと勉強しておけば良かったと後悔もしました。ちょうどその時、予報士の先輩から、「気象予報士の役割は雨か晴れかを予想するだけでなく、災害から人の命を守ること」と聞きました。防災をもっと知り、避難行動をどう取ったらいいかを学びたくなり、防災士資格もすぐに取得。「自分の身は自分で守る」「周りの人を助ける知識を持つ」という防災の基本を身に着けました。

― 実際に気象予報士になって変わったことは?
「上空の寒気の影響で大気の状態が不安定となり」などといった原稿の意味を理解できたことで、かみ砕いて伝えられるようになりました。

また、限られた時間内に一番伝えたいことを、どのようなビジュアルで図解して伝えるかを考えることにも、やりがいを感じました。台風の際は、「終夜放送」といって夜通し台風情報を臨時ニュースとして放送しますが、2018年には深夜0時から朝5時まで1時間に2回、渋谷の放送局から伝えました。女性の解説者として初めての試みで、臨時解説は男性が行うものという固定のイメージを変えることができたという点で印象に残っている仕事です。

― 天気予報を防災に活かすには?
天気予報は100%確定した情報ではありません。変化やブレ、ズレが生じる可能性もあります。最近は、様々な天気予報が携帯に配信され、例えば「前橋は雨マークついているな」とアイコンで判断する人も多いですね。でも、テレビやラジオの予報解説もぜひ、活用してください。「予報では曇りになっているけど雨になる可能性もある」などマークだけでは分からない変化のある情報も、積極的に解説されていますから。

危機意識を持ち情報を自ら取りに行く

― 東日本大震災の時は、どうしていましたか?
東京で気象予報士の仕事を始めようと2011年3月3日に群馬から引っ越して間もなく、東日本大震災が起こりました。マンションのトイレの水は揺れでこぼれて床は水浸しに。家族と携帯電話がつながらず、とても怖かったのを覚えています。

― 群馬は今後、自然による大災害の可能性はありますか?
よく友達が「群馬は災害が少なくていいよね」と話すのを聞きます。でも、今までたまたま地震や気象災害が少なかっただけ。群馬でも可能性はあるのだという危機意識を改めて持たなければいけません。

例えば2015年の「関東・東北豪雨」では、栃木県や茨城県が大きな被害を受けました。でもあの時、帯状の雨雲「線状降水帯」が少しずれていたら、群馬でも同じ災害が起こったのです。地震にしろ、気象災害にしろ、「群馬でも発生するのだ」という意識改革を一人ひとりが持ってほしいです。

さらに、私たちは東日本大震災を機に津波がいかに怖いのかも学びました。今年で10年になりましたが、「群馬には海がないけど海沿いに行くときは、気を付けて」などと若い世代にも伝えていかなくてはいけません。

― 具体的に、どう備えたら良い?
群馬は自然が豊かで山も川もあって良いところですが、危険もはらんでいます。結局は、「自分の身は自分で守る」という考えが重要ですから、防災に必要なのは、情報を「待つ」のではなく「自ら取りに行く」ことです。普段から、気象庁HPの「雨雲レーダー」や自治体の「ハザードマップ」を見て、リスクを知っておくことは重要です。

それから、地震でも気象災害でも、場面ごとにシミュレーションすること。家だったら、通勤途中だったら、寝ているときだったら、と考えてみる。お年寄りが一緒の場合は、若者夫婦だけの場合よりも早めに避難しなければならない。いつどういう避難行動を自分がするのか考えたいですね。防災グッズも人によって用意するものが違います。持病のある人は薬を、赤ちゃんのいる人は必要なオムツやミルク、自分の生理用品、マスクも。年に一度、定期的に点検、補給、見直しなどを行うといいですね。

世界の問題を広い視野で

― ボストンから、群馬の読者へ
コロナ感染のことなど不安もありましたが、夫の転勤の関係で1月に渡米し、ようやく生活が落ち着いてきました。ボストンは感染対策がしっかりしていて、マスクが義務化されています。スーパーの入店制限も厳しく、思ったよりも安心して過ごしています。

一方、災害については、地震は滅多にないため、対策は進んでおらず、古い建物が多く残っています。でも、雪国なので除雪には抜かりがありません。

日本にいたときは、木を見て森を見ずでした。地球温暖化は日本の問題ではなく、グローバルな問題です。広い視点で、天気や温暖化を捉えて日本に帰れたらいいな、と思っています。

まだ1か月ですが、すでに群馬が恋しくなっているのです。温泉があって自然も豊かで、落ち着ける街並みがあるのも良い。豚肉はおいしいですし。皆さんには素晴らしいところに住んでいるという誇りとともに、防災意識を高く持つことで、日々を安心して過ごしていただきたいですね。    (文・谷 桂)

【せきぐち・なみ】1985年5月31日生まれ、前橋市出身。早稲田大学教育学部卒業、NHK前橋放送局でキャスターを務めながら気象予報士の資格を取得。ウェザーマップに所属し、NHK総合テレビの首都圏ネットワークや首都圏ニュース845の気象情報を担当した。現在、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストン在住。関口奈美オフィシャルブログ「なみ天ブログ」も更新中(https://ameblo.jp/nami-sekiguchi/

掲載内容のコピーはできません。