エイズについて、初めて取材したのは1991年。男性宅を訪れました。男性は、治療に使った血液製剤でHIV(エイズウィルス)に感染。取材は匿名が条件でした。緊張した様子だった男性と母親は、出されたお茶や食事を遠慮せずいただく私をみて、途端に表情を緩めました。
その時の切なさを、大ヒット中の映画「ボヘミアン・ラプソディ」を観て思い出しました。英国のロックバンド・クイーンを描いた作品は、才能あふれるボーカリスト、フレディ・マーキュリーの孤独と苦悩も浮き彫りにします。91年11月、エイズを公表した翌日に訃報が流れました。
感染経路は限られるのに、世の視線と差別は厳しかった。国内初の患者確認は85年。異性間の性交渉で感染したとされる女性が87年に死亡すると、プライバシーまで暴かれました。欧米では著名人の感染や死が相次ぎ報じられました。
約30年後の今、治療は大きく進歩しました。検査で早期に見つけて薬を飲み始めれば、普通に生活でき、エイズへの進行もパートナーへの2次感染も防げます。なのに、感染が分かった時点ですでにエイズ発症に至っている例が今も3割を占め、高止まりしています。
早期発見を阻むのは、古いイメージや誤った知識による偏見と無関心です。福祉職男性が就職内定を取り消されたという今夏のニュース、感染者が透析や歯科治療を受けられる医療機関が少ないという現状に切なさが募ります。映画をみる人、音楽を愛する人たちに、フレディの渇望した「寛容」が広がることを願います。(
(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)