宮崎市の緩和ケア医、黒岩ゆかりさん(享年56)を「偲ぶ会」に今月、参加しました。夫の雄二さん(53)は言いました。「湿っぽい会にしたくないので。変な言い方かもしれませんが、楽しんで下さい」。
その言葉通り、チェロ演奏や宮沢賢治の詩の朗読、雄二さんの歌とギターにあわせて仲間が踊るフラダンスなど盛りだくさん。幼い頃の写真に和み、若手時代のおちゃめな逸話に笑い、患者が亡くなる度に泣いたという話に感涙しました。
6年前に取材で出会いました。緩和ケアやホスピスというと、治療の手立てのないがん患者が入院する病棟と思われがちですが、本来は違います。患者家族の痛みや不安に向き合い、身体と心を支えて生きる希望を与え、最後まで生ききることを支援する地域全体の取り組みです。
黒岩さんは20年前に記しています。「ホスピスとは単に建物を指すのでなく、患者と家族を支援する技術であり、理念・哲学」。2001年に宮崎市郡医師会病院の緩和ケア病棟に着任すると、開業医や訪問看護師を巻き込み、痛み緩和の薬の使い方など技術面、そして精神面で支えました。病院は外来や往診をせず、開業医らが看取りまで担う体制をつくりました。宮崎モデルと呼ばれます。
15年3月、進行がんが分かりました。星空がみたいと夫婦でモンゴルへ旅行したのは亡くなる4カ月前。暮らしを大切に丁寧に過ごされ、後任の医師や看護師に身をもって仕事を継がれた。その姿勢に感銘を受けつつも、大事な人たちの相次ぐ訃報に傷心なこの春です。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)