人形師 田島祐幸さん

伝統工芸品「前橋びな」で技能功労者に

「 伝統を守る心意気を感じて欲しい 」

立春を過ぎ、お雛様を飾る季節。繊細で凛とした白いお顔、紫や赤、黄色、緑など色彩豊かな県産絹織物の衣装が輝きを放つ。江戸時代から150年続く伝統技法を守り、人形作りに約40年以上従事している「人形の島久」(前橋市本町)の3代目社長で人形師の田島祐幸さん(66)が、令和元年度前橋市技能功労者として昨年11月に表彰された。「古来の伝統技能を受け継ぎ、創作改良に努め、その向上と伝承、後継者の育成等により産業の発展に寄与した人」に与えられるもの。田島さんは桐塑胡粉という貝殻の粉を塗り重ねた昔ながらの技法を用いた顔と県産の最高品質と言われる絹糸の織物を使用した衣装を使用した雛人形「前橋びな」が高く評価された。

1953(昭和28)年、人形店に生まれた田島さんは小さい頃から祖父や父の仕事を近くで見て育った。「丹精込めて作る人形は良いものだ」と大学卒業後、家業である人形師としての道を進み始める。

桐の粉末と正麩糊を練り合わせた木の粘土に胡粉と膠を何層にも塗り合わせる。78もの作業工程の「桐塑胡粉技法」は、1カ月に約20~30体しか作れない手間のかかる伝統技法。人形を上向きや下向きにすると表情や目線が変わり、様々な「お顔」になるのが魅力だ。製作は難しいが、作り手の技術や感性が表現できる「お顔」に夢中になった。

「群馬県オリジナルの雛人形を作りたい」と、衣装については、絹糸の品種を一から作り上げた。品種や染めなどを試行錯誤し、たどり着いたのが県産の絹糸「世紀21」だった。さらに、県の協力を得て「最も糸質が良い」と言われる蚕品種「またむかし」を使用した衣装作りを成し遂げる。

田島さんの人形を気に入った世界的能装束研究者・山口憲さんが、衣装の染や織りについて協力してくれたのも大きな転機になった。「認められたことで大いに励みになった。感謝しきれない」と当時を振り返る。
高齢化などで全国的に減少している人形職人だが、群馬ふるさと伝統工芸士でもある田島さんは息子の悠太さんと共に伝統を守り続ける。「お人形を見て美しいと感じるだけでなく、郷土群馬の底力も感じてください。息子と技能を磨いていきたい」と笑顔を見せた。

「前橋びな」を通して、日本の伝統文化を伝えたいという職人の熱意は、さらに次世代へと受け継がれる。 (谷 桂)

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