公開中の米国映画「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」は、実話に基づく物語です。ワシントン・ポスト紙を舞台に、女性社主キャサリン・グラハムが迫られた決断を描きます。政権に不都合な事実を報じるか否か。葛藤します。
ウオーターゲート事件と並び、調査報道の力を示す1970年代の事例として著名ですが、私が関心を抱いたのはグラハムの人生。彼女が2001年に亡くなった後、再び脚光を浴びていた自叙伝を手に取りました。
印象が一変しました。ニクソン大統領と対峙し、「報道の自由」を貫いた勇敢な女性経営者は40代半ばで継ぐまで専業主婦。周囲の顔色をうかがい、自分に自信がなかったといいます。そんな彼女の成長も映画で描かれます。
「報道が仕えるべきは国民だ。統治者ではない」。映画で終盤に語られるセリフです。同紙の報道は、一地方紙だった新聞を有力紙へと高めました。グラハムは自著で、政府の情報公開は、都合のいいものに限られる、と述懐します。
グラハム家は13年、同紙をアマゾン創業者に売却。世界的に新聞の購読数は減り、ネットでの収入もその減少を補えずにいます。スマホ時代の新たな表現と技術を模索し、挑戦しているのは弊社も同じです。
トランプ政権発足後の昨年、同紙は「暗闇の中では民主主義は死ぬ」とのスローガンを発表しました。不易流行。時代が変化しても、何のために新聞社は存在し、何を読者に届けるのか。常に問い続けていきたいと思います。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)