現代日本画界の最前線で活躍する作家を紹介する企画展「トップランナー」の第3弾として、本展覧会では群馬県出身もしくは在住の4人の日本画家‐坂本幸重・井田昌明・若山卓・須藤和之‐が描き出す、現代を生きる作品を紹介しています。
鮭と新聞紙という斬新な組み合わせは、坂本幸重が30年近くにわたり手がけてきたモチーフで、鮭の鱗を1枚ずつ、新聞の活字を1文字ずつ描く、徹底した描写力が高く評価されています。流行の写実表現と一線を画すのは、生命に対する畏敬の念が細密描写と融合することによって実在感が高まり、力強さが輝きを放つからでしょう。
幼少期の肉親の死から「死」に対する恐怖と戦い、「生」の意味を考え続けたという画家にとって、鮭の姿は「もがきあがいて生きる自分自身」だと語っており、大きく開いた鮭の口から魂の叫びが聞こえてくるようです。また、鱗や鰭にほどこされた鮮やかな色彩や厚みをもった岩絵具の煌めきは、間近で観ることでしか実感できない大きな魅力です。
一方、須藤和之は群馬銀行創立80周年を記念する作品の制作を依頼され、上毛三山と至仏山に季節を組み合わせた「群馬の四季」を完成させました。桜が散り、ニッコウキスゲや薄が揺れる群馬の情景を丹念な筆遣いで描き出した四部作の締めくくりが、冬の榛名を描いた《雪煌めく榛名山》です。榛名富士の手前に広がる榛名湖はまだ凍結しておらず、かすかに波立つ湖面が白く輝き、虹が彩りを添えています。雪は澄み切った空に風花のように舞っており、テーマである「風」が表わされますが、冬を白い雪景色として表現するのではなく、清冽な空気を主題とした構成が巧みで、鮮やかな季節感、穏やかな彩色とともに、格調高い世界を形成しています。
さらに、文化財の保存修復で育んだ技術と現代的なモチーフによる井田昌明のモノトーン作品や、動物と共生する中で体感する逞しい生命力を描き出す若山卓の力感溢れる世界など、繊細で力強い計67点の出品作品には、長い伝統の中で次代へとバトンを繋ぐ各作家の熱い想いが込められています。成長と変革を続ける現代日本画界に確かな足跡を刻む、4人の歩みをお楽しみください。