「僕が出ることで画面から温かさや匂いといったような、目に見えない何かが伝われば良いし、そんな俳優になりたい」
NHKの朝ドラ「べっぴんさん」に、主人公らが立ち上げた子ども服店「キアリス」で働く「たけちゃん」こと「足立武」役で出演中。下働きから取締役に出世するなど、回を追うごとに存在感を増している。「あんちゃん、それウェイクだよ!」の台詞で主役以上に強烈なインパクトを放つダイハツのCMでもすっかりお馴染みだ。人気急上昇中の若手俳優・中島広稀さんに、「べっぴんさん」や俳優への思いなどを聞いた。
【もうひと波乱ありそう】
Q「べっぴんさん」の出演オファーを受けた時のお気持ちは
昨年の春、以前ドラマでご一緒した監督さんに声をかけて頂きました。嬉しかったです。前作「とと姉ちゃん」から2年連続で出演でき、光栄です。
Qたけちゃんを演じてどうでしたか
15歳から50代まで演じる年齢の幅が広くて大変でした。キアリスでの住み込み時代だけでなく部長、取締役と昇進後もたけちゃんはずっと板挟み状態。主人公のすみれさんや夫で社長の紀夫さん、3人の共同創業者など色んな人の間に立ちどっちも怒らせないように振る舞う。そんな癒やし的役割を意識しながら演じました。彼の考え方や台詞など共感する部分はいっぱいありますが、自分はそんなに優しくなれないと思いました(笑)。
Qどのように役作りをしたのでしょう
たけちゃんのモデルになった方が現場に何度も来られ、「俺の時代はこんな甘くなかった」とか「生地は芯が折れないように運んだ」とか「寝ていた布団の上に商品を置くと怒られた」とか色々教えてくれました。具体的なエピソードが知れたのでイメージを膨らませるのに助かりましたね。おかげで役にリアリティが出せたと思います。
Qご自身の中で印象に残っているシーンは
明美さんに振られた後、すみれさんたちの勧めでお見合いをする113話(2月16日)です。その場にいた全員が緊張していました。現場の張りつめた空気は物凄くて、「たけちゃんに幸せになって欲しい」という皆さんの思いが役を超えて伝わってきました。「あのシーンは本当に良かった」と演出家にも褒めて頂き嬉しかったです。
Q現場の雰囲気はどうでしたか
凄く良かったです。皆一生懸命で、それぞれが相手をリスペクトしながら作り上げました。台本が出来上がるのがとても遅れた時もありましたが、臨機応変に対応しなければならない分、柔軟さがあって楽しかったです。一人一人が役を膨らませていくとアドリブも増え、つられてこっちも気分が乗っていく。そういう自由な雰囲気が観ている人に伝わったら良いなと思いながら演じました。
Qドラマは4月1日まで続きますが、たけちゃんは今後どうなるのでしょう
キアリスの取締役の一人になりましたが、最終話までにもうひと波乱ありそうです。大きな展開があるので楽しみにしていて下さい。
Q「べっぴんさん」は、中島さんにとってどんな作品でしょう
半年間、スタッフさんやキャストの方とご一緒させて頂きましたが、その繋がりの濃さは半端じゃない(笑)。だからこそ、遠慮なく演技にぶつかっていける。多くの人と出会えるし、密な関係性が作れる朝ドラは良いなとシミジミ思いました。自分的にとても大切な作品になりました。
【現場での「いかた」を大切に】
Q芸能界入りのきっかけは
スカウトです。小さい頃から人前で歌ったり踊ったりしていましたが、俳優になろうとは思ってもいませんでした。中学時代、東京に行った時、今の事務所の方に何度か声をかけられました。4回目くらいで、「よし、やってみよう!」という覚悟が出来ました。
Q14歳でデビューしましたが最初のお仕事は
湖池屋のポテトチップスのCMです。優等生役から不良役までやりました。WEB用CMの演技はすべてアドリブ。共演者の阿部サダヲさんが凄く面白い方で、緊張しましたがそれ以上に楽しかった。今でも忘れられない現場です。
QダイハツのCM出演で一気にお茶の間の人気者になりました
主役の玉山鉄二さんの弟役で出ています。あんちゃんに本気で怒ったり半ば呆れたり。色んなシーンがありますが、あんちゃんが大好きっていう気持ちを忘れず毎回、愛を持って突っ込んでいます。あんちゃんには全然響いてないですが(苦笑)。
Q事上のモットーは
本番以外でも、きちんとする。周りの対応が全く違いますから(笑)。良い環境や関係性を築いておかないと、思ったような演技ができません。だから、現場での「いかた」は大切にしています。
【いつもフラットでいたい】
Q俳優業の楽しさは
自分を無くすというより逆に自分が良い具合に出てきた時、面白いなと感じます。必死に役作りをするのではなく「あ、ハマった」という、自分と役柄の境目がなくなった瞬間にゾクっとしますね。
Q理想の俳優像は
良い役者というのがまだよく分からない(苦笑)。「こんな俳優になりたい」という以前に、色んなことを吸収していく時期だと思います。決めつけるのは辛いし好きじゃないから、いつもフラットでいるよう心がけています。僕が出ることで画面から温かさや匂いといったような、目に見えない何かが伝われば良いし、そんな俳優になりたいです。
Q今後、やってみたいことは
時代劇に挑戦したい。以前、「一路」というドラマに出演しましたが、その時、時代劇って凄いな、面白いなと感じました。本格的な立ち回りが出来るよう、殺陣や乗馬を習いたいと思います。
Q群馬のファンの皆さんにメッセージを
群馬と言えば「中島広稀」というレベルの俳優に早くなりたいです。普段、群馬を意識することはないのですが、朝ドラの長期ロケで大阪にいた時など、「群馬に帰りたいな」と凄く思いました。これから地元でも仕事が出来るよう頑張りますので、応援よろしくお願いします。
文・写真/中島美江子