全日本ヘッドコーチ/ビックカメラ女子ソフトボール高崎監督 宇津木 麗華 さん

夢を見ることが許されるのは現実が分かっている人だけ。そういうことも選手たちに伝えていきたいですね」と笑顔で話す宇津木監督=高崎グラウンド

金メダルに向けスタート
「チームと会社との『一体感』で掴んだ勝利。最後の最後で最高のチームになりました」

宇津木麗華監督率いる「ビックカメラ女子ソフトボール高崎」(以下ビックカメラ高崎)は今月1日、「第48回日本女子ソフトボールリーグ1部」の決勝でトヨタ自動車を破り「日本一」に輝いた。前身の「ルネサスエレクトロニクス高崎」時代を含めて2年ぶり10度目の優勝。ビックカメラ高崎としては創部1年目での快挙となった。全日本ヘッドコーチも務める宇津木監督にビックカメラ高崎やソフトボール、そして20年の東京五輪について聞いた。

【勝利の要因は一体感】

Q日本リーグで優勝した気持ちは

素直にうれしい。そしてホッとしました。今季スタートしたビックカメラ高崎は平均年齢20歳前後の若いチームですから、がむしゃらに無我夢中でやってきました。私の要求レベルは高く選手たちは大変だったと思いますが、優勝という結果に結びついたのは我々の気持ちが一つになった証拠。皆、良く頑張ってくれました。心から感謝しています。

Q決勝で選手にかけた言葉は

負けたら終わりとかノーエラーで行けと言ってもしょうがない。試合前、「今あなたたちが一番怖いのは誰」と冗談半分に聞きました。そしたら全員が「監督」と(笑)。嬉しかったです。相手チームが怖くないのですから。その言葉で、選手たちは平常心で臨めたのかもしれません。

Q日本一の勝因は

決勝トーナメント3試合全て上野に託しましたが、彼女のピッチングが完璧でした。ビックカメラ高崎は選手が若く、優勝候補のトヨタ自動車選手に経験ではかなわない。ですから気持ちで負けず、一瞬の突発力を大切に勝つことだけを考え真っ向勝負を挑みました。決勝には本社の幹部の方や社員の皆さんも応援に駆け付けてくれました。チームと会社の「一体感」で掴んだ勝利。最後の最後で最高のチームになりました。

Q来季の目標は

優勝すると「追われる立場」になると言われますが、来季も挑戦者としてやることをやるだけです。今季はチームの爆発力がうまくハマりましたが、来季は「計算できるチーム」を作り結果を出していきたい。

【五輪に向けてスタート】

Q東京五輪で復活の可能性が高い

嬉しいですが、いよいよスタートしなければという身の引き締まる思いでいっぱい。金メダルを取るためにやるべきことは何か。日々、自答しながら選手と向き合っています。

Q既に五輪選手育成を始めている

勿論です。世界の頂点は分かっていますからそこに辿りつくため各選手の能力を見極め、どこを伸ばせば良いかをじっくり分析しています。打者は短期集中でも大丈夫ですが、投手を育てるには上野がそうだったように時間がかかります。ビックカメラ高崎の浜村や太陽誘電の藤田さんは速球を投げられますが、世界で通用するにはまだまだ。スピードを高め球種を増やさなければいけません。喜怒哀楽が激しいとエースは務まらないので、メンタル指導もしっかりしています。

Q不動のエース上野投手はどうか

全く問題ない。今でも世界一の投手。ただし、頂点に立った08年の意識のままではダメ。上野自身もう1度、5年後の東京五輪に照準を合わせ練習や生活をゼロから組み立てることが必要です。

Q選手の能力をどう引き出すのか

「心技体」という言葉がありますが、選手にとって一番強いとこを引っ張り上げ自信を付けさせた後、弱い部分を強化していく。技術面でも同じ。走攻守のうち優れているところを磨くと他も伸びていく。あとは、なぜ今この練習をするのかを徹底的に理解させます。先の先まで説明すると選手は納得しますし、成長スピードも早まります。選手のタイプに合わせて教えるのが大事です。

Q指導で心掛けている点

時代に即した最新の指導法を、ソフトはもちろん野球やサッカー、陸上などあらゆるスポーツから取り入れています。技術だけでなく、例えば五郎丸さんのポーズも研究しました。実際やってみると集中できるなとか色んなことに気付く。良いと思ったら、とにかく何でも自分でやってみます。

【名選手こそ名監督に】

Q理想の監督像は

「良い選手は良い監督にならない」と言われますが、そうは思いません。日本一は一流の選手とスタッフが揃えば可能ですが、世界一はそうはいかない。監督に指導力や綿密な策がないと無理です。選手としての経験がない監督は、頂点まで追求しないしできない。「名選手こそ名監督になれる」のです。

Q全日本とビックカメラで監督を

同じ監督でもスタンスは全く違う。ビックカメラ高崎では、指導に加え松岡修造さん張りに「気合だ、気合だ」というパフォーマンスも大事。全日本はスター選手ばかりですから長嶋茂雄さん状態。「あ、いいね」と褒めることが多いですね。

Qソフトボールとは

30年以上関わっています。「人生より大事」と言う人もいますが、私にとって人生と同じように歩んでいくもの。人生を失ってまでソフトに全てをつぎ込むことはできないですがソフトのない生活も厳しいです。

Q高崎はどんな場所

大好きな場所。遠征で国内外に行きますが、その度に高崎の良さを感じます。災害も少ないし人も優しい。だから家も建てました。ビックカメラのチーム名に高崎が入り、感謝の気持ちでいっぱい。第二の故郷です。

Q群馬の皆さんにメッセージを

今季ビックカメラの一員として、高崎で再びソフトを出来る幸せを感じています。上野や若い選手と共に良いプレーでお返ししたい。私自身もう一度初心に戻りチームを強くし、群馬から五輪選手を一人でも多く育て日本ソフト界を盛り上げていきたい。東京五輪で金メダルを取るため、皆さんと一緒に「ガンバロー」と思っていますので応援よろしくお願いします。

文・写真/中島美江子

【プロフィル】Reika Utsugi
63年中国生まれ。ソフトボール中国代表として活躍後、24歳で来日。日立高崎に入団し95年日本に帰化。00年シドニー、04年アテネに出場しメダル獲得に貢献した。11年から全日本ヘッドコーチを務める。05年4月にビックカメラ高崎の監督に就任。創部1年目にして、日本女子ソフトボール日本リーグ1部優勝に導いた。高崎在住。

掲載内容のコピーはできません。