物事を断じるというのは、本当に難しい。そう感じた裁判が今月5日にありました。前橋市で2018年1月、自転車で登校中の女子高校生2人が乗用車にはねられ、1人が亡くなりました。この事故で、車を運転していた男性(87)が、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)の罪に問われました。その判決が、前橋地裁で言い渡されました。無罪でした。
判決では、事故の原因は、男性が低血圧で意識障害の状況に陥ったことだとされました。そうなることは予見でき、車の運転を控える義務があったとして、有罪を求めた検察側の主張は認められませんでした。法廷の傍聴席からは「人を殺してもいいのか」という声があったそうです。
判決言い渡し後の裁判長の言葉は「これは悲劇を繰り返さないための無罪判決です」。一方、亡くなった女子高生の両親は「悲惨な事故が二度と起きないためにも、運転するべきでない状態の人が運転を思いとどまるような判決を期待していた」。代理人を通じてコメントを発表しました。「大変驚き、落胆」されたそうです。
悲劇が繰り返されないことを願うという点では、同じ思いだったのではないでしょうか。ただ、「無罪」という司法の判断に、「とても納得できない」という遺族の気持ちも、もっともだと思います。取り返しのつかない悲劇。言葉が見つかりません。
(朝日新聞社前橋総局長 熊谷 潤)