地域の宝 守り伝えて200年 節目を盛大に
渋川市赤城町の国指定重要有形民俗文化財「上三原田の歌舞伎舞台」で11月2、3日、建立から200年の節目を記念した歌舞伎公演「創建弐百年祭」(創建200年祭実行委主催)が開かれる。舞台前の広場には地元住民らで作る保存団体「上三原田歌舞伎舞台操作伝承委員会」が建設した巨大なアーチ屋根の観客席がお目見え。9月には、舞台の維持・設営を地域一体で継承していることが評価され「サントリー地域文化賞」を受賞し、本公演を前にさらなる盛り上がりを見せている。今号では弐百年祭のあらましを始め、本番に向け一丸となって取り組む伝承委の活動や当日の主な出演団体、歌舞伎舞台の歴史や独特な四大機構について紹介する。 (上原道子)
江戸の趣をまとった茅葺きの小さな歌舞伎舞台は、国道353号線に面した高台に建つ。
舞台の正面には先月、幅約20㍍、奥行き約25㍍高さ5㍍の巨大なアーチ屋根「小屋掛け」が完成した。歌舞伎公演の観客席にあたる建物で、大きな公演(不定期開催)のたびに伝承委員である地元住民らが結集し、約5カ月にわたり巨大観客席を設営するという一大事業が展開される。今回の設営作業は5月末に始まり、9月15日には建設の様子を間近で見られる一般見学会を実施。市内外から多くの人が訪れ、舞台の歴史、小屋掛けの方法や進捗状況など、伝承委員の行う解説に耳を傾けた。
明日2日から行われる「創建弐百年祭」には、伝承委員らが拍子木を打ち鳴らしながら入場する「木遣り」に始まり、歌舞伎舞台の創建者である永井長治郎の供養祭、続いて市内外の全10団体が2日間にわたり演目を披露。さらに、観客席からは伝承委員が大勢で声を掛け合いながら舞台の上げ下げや回転など特殊な機構をすべて人力で操る様子も見学できるという。
明日2日は、三原田小の児童が金管演奏と歌舞伎を披露する(4ページに関連記事)ほか、市内の津久田人形操作伝承委員会桜座や赤城古典芸能保存会が登場。今回新たな試みとして、歌舞伎以外の演劇を「演劇プロデュース とろんぷ・るいゆ」(5ページに関連記事)が同舞台で初めて上演。市内外から集まった役者が、シェークスピア作「夏の夜の夢」に挑む。3日は、渋川子ども歌舞伎、埼玉の小鹿野歌舞伎保存会、渋川の半田歌舞伎坂東座による歌舞伎上演のほか、心彰流剣舞剣彰会による剣舞披露、市の委託により同伝承委員会の活動の様子を記録し続ける映画監督・野田香里さんによる映像上映なども行われる。なお、2日にはFMぐんまパーソナリティーとして活躍し父親が上三原田出身という内藤聡さん(藤岡出身)が登場し会場を盛り上げる。
今年9月、地域一体となった保存・伝承の功績が大きく評価され、サントリー地域文化賞を受賞した同伝承委。長岡米治委員長(77)は「委員一同、本番へ向けて大変励みになった。多くの人に見に来てほしい」と呼びかける。
地元民が手作り
巨大アーチ屋根付き客席 12年ぶりに復活
世界的にも他に類を見ないという複雑な機構を持つ歌舞伎小屋を保存、伝承しているのが地元の住民らで作る「上三原田歌舞伎舞台操作伝承委員会」だ。1960年、同舞台が国重文に指定されたのを機に発足。地区の全180世帯が加盟。毎秋、小規模の歌舞伎公演を開催しており、その準備と当日の舞台演出の機構操作を担う。
最大の「7本掛け」 伝統の技光る
同舞台で大規模公演が行われるのは、2001年の「国民文化祭・ぐんま」、07年の「全国地芝居サミット」に続き戦後3回目。伝承委は今年5月から小屋掛けの(客席の屋根)設営作業をスタートさせた。骨格用の材料として杉やカラマツ、竹などを、近くの市有林から切り出すところから開始。根っこを付けたままの杉を2本1組にして両端から延ばし、中央部で1本に結んだ部材は「跳ね木」と呼ばれ屋根の骨格の要となる。中央の結び目を地面に建てた柱で支え、端の一方は地中に埋め、一方は800㌔のコンクリートの塊で引っ張ることで美しいアーチを作り出す。跳ね木の本数は年によって3本、5本、7本の3パターンあり、今回は約1000人の観客が収容できるという、最大規模の「7本掛け」。07年以来、実に12年ぶりに巨大アーチ屋根が完成した。跳ね木の間に格子状に組み込む300本の竹は「箱縛り」という独特の結び方で一つ一つ丁寧に固定。6日間かけて1400カ所の箱縛りを行った。左右に設けた一段高い桟敷席は、周囲の壁が竹やわらで美しく装飾され、来場者を迎える準備は整った。
少数精鋭、適材適所
伝承委に所属しているのは、地元の男衆だ。大工、土木業、とび職など地元で腕を鳴らす専門家も数人いるが、多くは会社勤めの素人。作業は土日に限られる。
専業農家で3世代同居が当たり前だった昭和30年代は、呼びかければ1日50~60人がすぐに集まったが、今は毎回平均25人がやっと。また、作業を担うのはほとんどが高齢者。伝承委の都橋俊明事務局長(69)は、「できる人に教わりながら、それぞれの得意分野を生かし作業に当たる。少数精鋭、適材適所です」と微笑む。
伝承委は1年前から、設営経験の浅い人を対象に段取りや木や竹の結び方などの勉強会を定期的に開き準備を進めてきた。長岡委員長は、「高齢化と人手不足が今の課題。長く継承していくため、特徴のある作業や技術は体で覚えてもらい、指導できる人材を1人でも多く育てていきたい」と意気込む。
舞台周りや客席整備を含めた作業は先月20日に完了。小屋掛けは同祭後の関連特別公演(11月9日、尾上右近さん出演)を経て今月中旬以降に取り壊す予定という。
本番は80人態勢で 舞台操作も
各出演団体の上演に合わせ、手動で舞台操作を行うのも、伝承委の重要な役割だ。大きな装置を安全かつ確実に動かすには、拍子木の合図で一斉に力を込めて操作することが必須で、呼吸を合わせるのが大変難しいという。また、複雑な操作にはより多くの人員が必要で、小屋掛け作業メンバーに加えて、当日参加できる住民を募った。地元の力を結集させ80人態勢という壮大なスケールで本番に臨む。