【長寿ブームの火付け役】
「メディアを通して、日本の医療問題や予防医学の大切さを伝えていきたい」
【最新の健康情報を発信】
「世界一受けたい授業」や「はなまるマーケット」など数々の人気テレビ番組に出演。ソフトな語り口と丁寧な解説で、お茶の間から絶大な支持を集めている。アンチエイジング、予防医学の第一人者であり長寿ブームの火付け役だ。その名を一躍世に知らしめた代表作「100歳までボケない101の方法」では、100歳まで心身を若々しく保つための簡単かつ具体的な習慣を伝授。10年の初版以来、累計35万部を超える。
昨年は週10本のコラムに加え年60冊の著書を出す。年明け早々「肥満遺伝子」を出版するなど精力的に執筆活動を展開。「読者にとって利益になる最新の健康情報をハイペースで発信している。瀬戸内寂聴さんから『凄いわねえ。書きすぎよ』と言われました(笑)」
【進路で悩むことはなかった】
館林で産婦人科医院を開く両親の下に生まれる。12歳まで同市で暮らし小学校卒業と同時に横浜へ移り住む。中高一貫校から医学部へ。進路で悩むことはなかった。迷いのない職業選択は両親、とりわけ父親の生き方が大きな指針になっている。医師で画家の故・白澤實さんは自らが取り上げた赤ちゃんの絵を2枚描き1枚は手元に、1枚は母親に手渡していた。3000点を超えた時、展覧会を開きモデルの子供と母親を招く。そこには治療だけでなく深いヒューマニティーがある。「地域医療にどう貢献できるか。医師として父の示した方法論に心打たれました」
大学で免疫学を学び90年、東京都老人総合研究所赴任後はアルツハイマー病研究を開始。当時、原因不明の難病とされていたが予防という独自のアプローチを試み、その後の治療を飛躍的に向上させた。「この病気の最大要因は加齢なので老化を遅らせれば発症率が抑えられると考えた。当時、多くの医者が加齢コントロールは不可能だと思い込んでいたため予防という発想は想定外。私が発表した際、『意見を言うのは自由だけどね』と大笑いされました」
【アンチエイジングを研究】
ここ10年間は老年学と抗加齢医学を専門に元気な100歳と寝たきりの100歳はどこが違うかという研究に没頭。そこには、亡くなる101歳までスキーヤーとして活躍した三浦敬三氏と101歳の現役医師日野原重明氏の存在が大きく関わっている。「7年前、敬三さんの生活スタイルを抽出し日野原先生に照らし合わせたところ、100歳までボケない条件が全てそろっていた。当時から今の状態が予測できたのです。2人の生活スタイルに新しい研究を融合させることが、私の課題になりました」
07年から順天堂大学院加齢制御医学講座の教授に就任。加齢制御医学とは加齢をコントロールし老化のスピードを緩やかにする、いわゆるアンチエイジングを研究する学問。「例えば同窓会では、学生時代と変わらない人と誰だか分からないくらい老けてしまう人がいますよね。この差が何によって引き起こされるのかを学術的に研究しています」
【食事、運動、生きがい】
では、加齢スピードをコントロールするにはどうすればいいか。「食事」「運動」「生きがい」の3要素が欠かせず、食事の場合「朝食を取る」「食べ過ぎない」「カロリー以上に栄養素、食物繊維、ビタミン、ミネラルの摂取に気を付ける」ことが重要と説く。「カロリー制限が長寿遺伝子を活性化させることは分かっていますし、朝食を取る人は要介護になりにくい。ご飯を食べなくても野菜果物たっぷりのジュースで十分。僕も朝はほとんど野菜ジュースだけです」 次に運動。これは個人差もあるが日常生活の中で習慣化できるかどうかが大きな鍵になる。例えば食品を買いだめしないで毎日スーパーに行く、電車通勤の場合必ず階段を使うといった具合に、日常の積み重ねこそがエイジングのスピードコントロールに効果的という。
そして、食事や運動以上に大切なのが生きがい。食事や運動を実践するのは比較的簡単だが継続は難しい。モチベーション維持には具体的な目標、やりがいが必要だからだ。「特別なことではなく趣味を極めるのでも良い。それもない人はモチベーションの高い人の傍に行き、生きがいを分けてもらうこと。生きがいや幸せは伝染するのでポジティブな人といる時間を長くしネガティブな人との接触は極力減らして下さい」
【医師としての強い使命感】
大学の講義や病院外来、海外出張。激務を縫ってメディアに出るのは医師としての強い使命感からだ。「学会発表や患者への治療も大事だが、それだけでは社会的責任を十分果たしているとは言えない。医者は多くの人に有効な情報を発信する義務もある。目指すのは養老孟司さんのスタイル。彼が書籍を通して一般の人にメッセージを送ったように、私もメディアを通して医療の現状や予防医学の大切さを伝えたい」
多忙を極めるが、今後も変わらず予防医学のインフラ作りに力を注いでいく。健康寿命が伸びれば、高齢者の生活の質が高まり医療費も削減できるからだ。「日野原先生のように元気で100歳を迎えられるのは、治療医学でなく予防医学のお陰ですからね」 穏やかな表情には自信と確信が満ちていた。
文:中島 美江子
写真:高山 昌典
〜白澤氏へ10の質問〜
尊敬する人は日野原先生と養老先生
—群馬のイチオシは
焼きまんじゅう。味噌ダレが香ばしくておいしい。子供の頃良く食べました。
—館林のオススメは
城沼や多々良沼は美しいですね。画家でもあった父が良く描いていました。
—座右の銘
「1日として同じ雪を滑ったことはない」 三浦敬三さんの言葉です。敬三さんは20歳から100歳まで年間平均160日程山スキーをしていましたが、それだけ滑っても同じ雪はないと。深い言葉だなと思いました。彼にとって自然は80年間かけても知りつくせない存在であり、だからこそ一生チャレンジするだけの価値をそこに見出していたのです。敬三さんのような一生をかけるに値する生きがい、深いテーマ性を持つことがアンチエイジングになるんだと学びました。
—好きな食べ物飲み物
ブロッコリー。独特の味や風味が好きです。オリーブオイルでサッと炒めて食べるのがおいしい。あとは野菜ジュースとワイン。以前はビールばかり飲んでいましたが、今はおいしいと思わなくなった。好みは歳と共に変わるんですね。
—マイブームは
コンピューター。特にマックにはまっています。最新機種が出ると直ぐに買っちゃいます(笑)。
—長所短所は
患者さんに対応するには辛抱強さが必要ですから、長所は忍耐力があるところでしょうか。仕事を通して培われた部分が大きい。短所は集中し過ぎて回りが見えなくなること。自分と他人のペースが全く違っていることに気付かない時が多々あります(苦笑)。
—尊敬する人は
医師の日野原重明さんと解剖学者の養老孟司さん。予防医学の方向性としては日野原先生を、著書を通して一般の人に広くメッセージを送るという点では養老先生をモデルにしています。これからも、お二人の活動をハイブリッド的に継承していきたい。
—趣味は
ピアノとフルート。ピアノは40歳から、フルートは50歳から始めました。どちらも楽しんでいます。日野原先生が趣味のオペラを仕事にされたように、僕もこの趣味をいずれは音楽療法として終末期医療に役立てられたらと思っています。
—モットーは
一旦始めたらやめない。持続することが重要なので、到達ポイントやゴール設定を明確に決めて臨みます。アウトプット以上にアウトカム(結果)を重視していますね。
—愛用の仕事道具は
タブレット型コンピューターiPad。国内外どこにでも持って行く。あとスケジュールノートも欠かせません。予定を書き込む時は鉛筆。しょっちゅう変更がありますから(苦笑)。