榛名湖畔で暮れゆく秋空に目を奪われていると、関西在住の同期の友人から「上京中。会えないか?」と数年ぶりのメール。そうか、多忙にかまけて転居通知も出していなかった。湖畔の夕景を添え、秋から前橋勤務だと返信すると、「え? オレの古巣じゃないか!」
その翌日、前橋駅にはマスク姿の彼が。思い立つと深く考えずに走り出すあきれた腰の軽さは、記者稼業のならい。感染防止に注意を払いながら再会を喜びました。
彼は1990年代末、青森、函館を経て前橋で数年勤務したOB。他紙に抜かれ、デスクに怒られ、夜討ち朝駆け先でも警察幹部や議員に怒られ……。そんな駆け出しの20代後半を過ごした群馬は愛憎半ばする地では。「いやいや、ここで取材先のみなさんに鍛えられたから、その後の記者人生があった。第二の故郷だ」と感慨深げです。
名古屋や岐阜、東京、大津を経て数年前に退職。英国で経営学修士を取り、報道機関の経営について研究中、コロナ禍で帰国を余儀なくされ、論文執筆に奮闘しています。ネットの普及や媒体の多様化で、国内外を問わず新聞社の経営は厳しさを増す一方。「そんな古巣の新しいかたちを探るのが、オレにとっての倍返し」。熱く語らい、夜は更けてゆく――。
「すぐにまた来る」。手を振る彼にクギを刺すのだけは忘れません。「もう現役じゃないんだから、アポなし訪問や夜討ち朝駆けは勘弁してくれよ」
(朝日新聞社前橋総局長 本田 直人)