東京にいた学生時代、品川の原美術館へ友人に誘われ出かけたことがあります。現代美術の先駆け的存在。昭和初期の旧邸宅を利用した同館は、芸術と生活が少し高いレベルで融合したような雰囲気を醸しだしていました。広い庭に面したガラス張りのカフェもおしゃれで惹かれました。
その原美術館が昨秋、2020年末での閉館を発表しました。実業家の原俊夫・前館長が、祖父の私邸を改築して1979年に開館。東京国立博物館本館を手がけた渡辺仁氏が設計した白を基調とした建築で、閑静な住宅街にある隠れ家感も特長。惜しむ声が聞かれます。
次に拠点となるのは、別館として88年、渋川・伊香保にできた「ハラ ミュージアム アーク」。伊香保グリーン牧場そばの広い敷地に建つ、黒が基調の建物は、群馬ともゆかりある磯崎新氏が設計。現代美術と古美術のコレクションで知られます。
朝日新聞群馬版で吉永哲郎さんが長期連載する「郷土ゆかりのほん」で昨秋、同館が取り上げられました。仏出身の美術史家が著述した「フランス人がときめいた日本の美術館」の一つに選ばれたという紹介です。群馬の美術館が評価されたことが嬉しく、気になっていた同館を訪れる契機になりました。
サクラ咲く頃、品川と伊香保の両館を再訪しました。都市と榛名山麓。白と黒。旧住宅と美術品の保管や展示のための新築物。すべてが異なる両館の活動が21年に渋川で集約され、新名称「原美術館ARC(アーク)」として再出発する時が楽しみです。
(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)