芸人、ミュージシャン、俳優、声優など幅広く活躍する金谷ヒデユキさんが、芸人目線で世間を斬ります。不定期連載。
「ニューイヤー駅伝」をTV観戦した後、ちょいと近所へ散歩に出かけました。鮮やかな日ざしの向こうにそびえ立つ妙義山。お弁当やお寿司のパックに入っている「バラン」を思い起こさせる緑のギザギザ。ああー群馬だー。と、しみじみ感じ入りながら歩いていると、バイクに乗ったひとりの男性に声をかけられました。
「あのー、安中杉並木ってどっちに行ったら見られますか?」
知ってますよね、安中杉並木。群馬県人なら全員知ってる上毛カルタの『な』の札。『中仙道しのぶ安中杉並木』。地元安中では一番人気の札です。プレミアムカードです。
「ああ、安中杉並木ですか?それだったらこの道を…」と言いかけて、ふと不安がよぎりました。果たして今の杉並木は彼の期待に答えられるだろうか?
全盛期には700本あったという杉並木も、今や残っているのは十数本。それを見てがっかりしないだろうか?
彼の乗っているバイクを良く見ればオフロードタイプ。山道でも難なく走行できるバイク。おそらく彼は上毛カルタの大ファン。上毛カルタになぞらえた名所巡り旅の途中に違いない。『浅間のいたずら鬼の押し出し』を皮切りに『伊香保温泉日本の名湯』に浸かり『碓氷峠の関所跡』を乗り越え『縁起だるま少林山』を登り…と、上毛カルタ巡りをしているに違いない。そんな彼が、今の安中杉並木を見てどう思うだろう?
「えっ?こ、これが、杉…並木?」
変わり果てた姿の初恋の人と再会した時のようなショックを与えないよう、いっそ場所を教えない方がいいのか? いや、例えショックを受けたとしても真実を受け止めた方がいい。そう思い、正直に安中杉並木への道を伝えました。「ありがとう」とバイクで去って行く彼。どうか今の杉並木に満足してくれますように。「神様、仏様、お願いします!」と僕は手を合わせて祈りました。
『白衣観音慈悲の御手』『白衣観音慈悲の御手』と何度も唱えながら…。