エレベーターやスロープが今ほどなかった約30年前。大阪から講演に来た、障害ある男性の話に驚きました。車いすで生活すべてに介助が必要だが、ボランティアの援助で一人暮らし。映画や飲酒のため介助付きで外出する。親元や施設を離れての「自立」だ――。
数年後に関西に暮らし、珍しくない事と学びました。車いす利用者がトイレや段差など「街中の障害」を点検し、行政や企業に改善を要望。脳性まひで24時間介助が必要な女性が市議でした。生活や政治活動を数十人のボランティアに支えられ、出産子育ても。4期を務めました。
「こんな夜更けにバナナかよ」。2003年に出版されたノンフィクションは、筋肉が衰える難病のため全面介助が必要ながら、札幌で一人暮らしをする鹿野靖明さんとボランティアの葛藤を描きます。夜中にバナナを食べると言う「わがまま」にいらついた介助者の言葉から、ユニークな題名が生まれました。
ケアを受ける人は、控えめに生きなければならないのか。自由に街に出たいと願うのは、わがままか。議員活動は、出産子育ては。夜中に腹が減るのは――。作品は「人に迷惑をかけないのが自立」と刷り込まれた私たちを揺さぶります。
障害者運動が進めたバリアフリー化を、私たちは享受しています。「自分のしたいことを自分の意志ですることが自立」。鹿野さんたちの考えが普通になる時、高齢者介護の姿も変わるに違いありません。28日公開するこの本が原作の映画が、その一助になればと願っています。
(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)