芸人、ミュージシャン、俳優、声優など幅広く活躍する金谷ヒデユキさんが、芸人目線で世間を斬ります。不定期連載。
前回、この連載で広島のデイサービスで行ったライブの事をお伝えしました。そこに集まったおばあちゃんたちにモテモテ。今まで自覚していなかった自分の年上キラーっぷりを肌で感じたお話。今やその年上キラーっぷりがぐんぐん加速し、私が所属する漫才協会の先輩師匠方にもモテモテ。舞台が終わると「金谷!飲みに行こう」「金谷くん今日は終わった後何してるの?」「今日こそは逃がさないよ」と誘いの嵐。先日も4人の師匠たちに囲まれ、私以外全員70代という「おっさんずラブ」を超えた「おじいさんずラブ」状況を味わいました。そんな風にお世話になってる師匠方。その中の一人が、このたび天国へと旅立たれました。夫婦漫才「新山ひでや・やすこ」の、ひでや師匠です。
この師匠、元々「ひでや・えつや」というコンビを組んでいたのですが、相方が病に倒れ、漫才ができなくなってしまいました。かといって一人で舞台に立つも上手く行かず、それを見かねた奥さんが「あたしが代わりに漫才やる!」と名乗りを上げ、それまでまったく舞台経験のない普通の主婦が夫婦漫才に挑戦。最初は声も小さく、舞台に出てもオドオドして、どんどん後ろに下がっていたそうです。それが今では誰よりも大きな声で舞台の上を動き回り、夫婦ならではのやりとりで客席を沸かせていました。
夫である「ひでや師匠」も、ずーっと隠していた頭部の秘密を後輩のナイツにバラされ、開き直って髪ング、いや、カミングアウトしたところそれが笑いにつながり、頭にはカブっていても芸風は誰ともカブらない夫婦漫才を見せてくれました。とても優しい師匠で、会うたびに「金谷くん、帽子が似合いますねー」「いやー師匠こそ帽子がお似合い…あっ、帽子じゃなかった!」はるか後輩の私がイジってもにこやかに返してくれていました。
そんな最中の訃報。急な知らせにモヤモヤした気持ちのまま斎場へ。祭壇に飾られた遺影には、ひでや師匠のにこやかな笑顔。そして着ているTシャツには「かつら」の文字が!脇には抱えた一升瓶。その銘柄はその名も「はげあたま」。遺影にヅラネタが二つ。カブってます。
そして祭壇の横を見れば、そこには美容室で見かける頭部のみのマネキン人形が二体。そしてその上には生前の師匠が愛用していたカツラがふたつ。カブってます。
参列者も悲しみにふけりつつ、どうしても目に入るヅラ。静岡出身じゃなくても気になるヅラ。生前の師匠同様、最後まで皆を楽しませてくれました。最後に夫婦漫才「ひでや・やすこ師匠」のギャグで締めたいと思います。ひでや師匠、師匠と出会うことが出来て「最高最幸!」でした。