毎年5月3日の前後、朝日新聞は「明日も喋(しゃべ)ろう」の題で連載をします。31年前、阪神支局で散弾銃を持った男に小尻知博記者が殺され、犬飼兵衛記者が重傷を負わされました。事件で問われた「言論の自由」を誓い、企画を続けています。
題は、伊勢崎の詩人小山和郎さん(1932~2011)が詠んだ自由律俳句から。事件と犯人を追った取材班が「誓いの言葉」にしたのが由来です。句を愛誦した担当デスクが同僚に毛筆で書いてもらい、支局の壁に掛けたそうです。
〈明日も喋ろう弔旗が風に鳴るように〉。事件から2年後に入社した私が知ったのは、小尻記者の七回忌に刊行した同名の追悼集です。だからか、出典を尋ねる小欄読者からの質問には少し難渋しました。
詩集4冊や同人誌各種を探したけれど空振り。最終的には追悼集を端緒に、伊勢崎市民俳句会編「市民句集」(1962年)で見つけました。「のんせんす・ぽえむ」と題する8句の一つ。単独句集は見つかりませんが、同会には前年の第1集から参加しています。
探す過程で小山さんの人生に触れました。キャサリン台風で母を失い、十代で結核に。療養所で同人誌をつくり、同郷の大正時代の労働詩人に魅せられ…。その詩人根岸正吉を長年研究し、「群馬文学全集」収載に寄与しました。
〈明日も…〉は「亡き友人を悼み詠んだ句」といわれますが、同時に強い決意も感じます。死との対峙を出発点に作品を生み出した詩人の人生と胸の内をさらに知りたくなりました。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)