ホラー映画からの脱皮
『魔女の宅急便』の実写化は、ホラーからの脱皮を図る僕にとっても大きなチャレンジでした
【大きなチャレンジ】
「物凄い無謀な企画ですよね。どうしたって宮崎駿監督のアニメ作品と比べられますから。でも、だからこそ挑戦しがいがありました」 『呪怨』で知られるジャパニーズホラーの名手が手がけた『魔女の宅急便』の原作は児童文学で角野栄子の不朽の名作。昨春にクランクインし昨年末に完成した。3月1日から全国公開される。13歳のキキが見知らぬ町で魔女として成長していく姿を描いた同作には、映画初主演の小芝風花や宮沢りえ、尾野真千子らが出演。
メーンロケ地には瀬戸内海に浮かぶ小豆島を選んだ。アニメ版同様、外国を舞台にすることも考えたが、実写で日本人が演じるので、そこを踏まえたオリジナルの世界観を構築するため敢えて日本にこだわった。作品に込めたテーマは明確だ。「壁にぶつかりながらも乗り越えていく主人公の姿を通して、“自分の可能性を信じ新しいことに挑戦していこう”というメッセージを感じ取ってもらえたらうれしい。『魔女の宅急便』の実写化はホラーからの脱皮を図る僕にとっても大きなチャレンジでした」
【ごっこ遊びと変わらない】
幼い頃から本好きで、お気に入りの絵本や漫画をもとにオリジナルの物語を作っては遊んでいた。映画との出会いは小学時代。10歳の時に観た『E.T.』に衝撃を受ける。「主人公も同じ10歳。メチャメチャ共感しましたね。パンフレットでスピルバーグ監督を知り、この時から作り手の存在を意識するようになりました」
高校の学際ではCMのパロディー作品を仲間と共に制作・上映した。大学では演劇を専攻。自主中退した後は映画館でアルバイトをしながら自主映画や舞台演劇での活動を続けた。転機が訪れたのは22歳の時。実家から送られてきた地元の新聞に、県製作の映画『眠る男』スタッフ募集の記事を見つける。小栗康平監督の組で見習いとして小道具担当の経験を積んだ。「ワンカット撮るのに何日もかけたり、木を伐採したり穴を掘ったり(笑)。映画作りがいかに無駄が多いか、また、その無駄をどれだけ有意義なものに昇華できるかが勝負だということも学びました。どこか、子供の頃の『ごっこ』遊びと変わらない。贅沢な仕事だと思いました」 その後上京。様々な監督のもと、小道具や助監督の仕事をしながら通った映画専門学校で、課題作品が黒沢清監督らに認められ出世作『呪怨』製作へ繋がっていった。
【『怖いもの』を随所に】
怨念が宿る民家に訪れた人が次々と呪い殺されていく−99年に誕生したビデオ版「呪怨」は、03年に劇場版として公開され大ヒットを飛ばす。「日本家屋特有のジメっとした湿度、押し入れや階段の薄暗い闇、天井裏から聞こえる不穏な物音など子供の頃に感じた“怖いもの”を随所にちりばめた」という同作は、『スパイダーマン』のサム・ライミ監督の心を捉えハリウッド進出を果たす。自らリメイクした「THE JUON/呪怨」は04年に全米公開され、日本人監督の実写作品としては初めて全米興行収入1位を獲得。世界中にジャパニーズホラー・ブームを巻き起こした。「実はハリウッドの話は1度、断っているんです。焼き直しするのはどうかなと。でも、僕が呪怨に込めた恐怖やコミカルな部分をプロデュースしてくれたサム・ライミ監督は全て理解してくれていたので俄然やる気になりました。国によって習慣や文化、価値観が全く違うということが身に沁みて凄くいい経験になりましたね」
【思い悩むことはしょっちゅう】
呪怨シリーズ後も次々とホラー映画を発表。一方、サスペンスや恋愛ドラマも手がけてきた。何よりも、予期せぬことが起こるロケ現場のライブ感や緊迫感が好き。映画作りで心掛けているのは「自分らしさを敢えて意識しない」「とにかく自分を信じる」こと。「こだわりは無意識に滲み出る。思い悩むことはしょっちゅうですが、監督が決められないと現場は不安になるのでたとえスタッフ全員から反対されても必要とあれば自分の意志は貫き通す。そうじゃないと監督の存在意義はないですから」
正解のない現場で絶えず決定を下すには、独自の視野や発想を培うための努力が欠かせない。そのうちの一つが人間観察。電車の中や居酒屋など、あらゆる場所で行っている。「例えば、ディズニーランド帰りで楽しそうにはしゃぐ女子高生が『ミッキーの中って絶対おっさんだよね』なんて話している会話は印象に残りました。そこに17、18歳の妙なリアルを感じて。その人や世代の本質が垣間見える言動を日々キャッチし映画に反映していく。その積み重ねです」
【撮りたいものは変わらない】
「魔女の宅急便」は3月の公開を待つばかり。ジャンルは違っても、撮りたいものは変わらない。監督に導いてくれた『E.T.』のように観た人の人生を変えてしまうような作品だ。
日本を代表するホラー映画監督としてゆるぎない地位を確立してから10年以上。が、そこにとどまる気はない。いつか、自作の絵本を題材にしたダークファンタジーを撮るのが夢だ。「家族からは“ご近所や親戚に薦められるような映画を撮ってくれたら”と言われます(笑)。ホラーでもファンタジーでもスタンスは一緒ですね。観てくれた人のトラウマに残れば、と思いながらやっています。良い意味で裏切っていきたいですね」 ホラーからファンタジーの旗手へ。新たな顔を見せてくれるのはもうすぐだ。
文:中島 美江子
写真:高山 昌典
〜清水崇氏へ10の質問〜
生まれ変わるならマンタになりたい
—長所短所は
長所は1回好きになった人やモノは嫌いにだけはならない。ただの頑固かもしれませんが。短所は飽きっぽくて短気なところ。
—好きな食べ物飲み物は
納豆と焼肉。特にロースとカルビが好きです。飲み物はバーボン。ストレートで、ほっとくと毎晩飲んじゃう(笑)。
—座右の銘は
平家物語の冒頭部分「祇園精舎の鐘の声、 諸行無常の響きあり」。この世の全てのものは常に変化・生滅し、永久不変なものはない。そう思えると気持ちが楽になります。
—故郷・前橋のオススメ
登利平の「鳥めし弁当」。前橋を離れてから、より好きになった。中でも安い竹が一番です。トンカツ弁当や唐揚弁当もおいしい。
—モットーは
「たかが映画、されど映画」。撮影前に、悩んでドツボにハマり過ぎちゃうことが多いのですが、そんな時は「別に死ぬわけじゃない」って開き直るようにしています。じゃないと、やってられないですから(苦笑)。
—リフレッシュ法は
お酒を飲むことと一人カラオケ(笑)。「熱唱感」が得られるサザンオールスターズや長渕剛さんの曲などが好きですね。仕事休みの前日などは、朝まで長時間歌ってることもあります(笑)。
—マイブームは?
世界最大のエイ「マンタ」。大学生の頃からずっと好きで水族館へ行くと何時間でも眺めていられる。生まれ変わるならマンタになりたいくらい。独身時代、「マンタの部屋」を作ってポスターやグッズで埋め尽くしたこともある。今もマンタグッズを見つけては購入していますが、誰からも共感を得られません(苦笑)。
—尊敬する映画監督は
スピルバーグ監督は別格ですが、ほかにも沢山います。スタンリー・キューブリック監督は絵、構成、物語、役者の芝居など、どれをとっても完璧。クシシュトフ・キェシロフスキ監督も素晴らしい。彼の10話からなる連作集『デカローグ』は、『呪怨』のモデルになっています。あと、溝口健二監督の描く女性もスゴイですね。野村芳太郎監督も好きですが、彼の「鬼畜」は僕の中で未だに一番怖い映画です。
—常に身につけているものは
妻と子供が誕生日にプレゼントしてくれたポシェットと、山ほど種類を持っているキャップ型の帽子。遠視用メガネとタバコも欠かせないですね。
—これからやりたいこと
ダイエット。運動しないと、かなりヤバイ。まずは筋トレから始めようと思っています。