芸人、ミュージシャン、俳優、声優など幅広く活躍する金谷ヒデユキさんが、芸人目線で世間を斬ります。不定期連載。
2016年から始まったこの連載の中で、一番多く取り上げたのがやはり芸人の話。中でも私が所属する漫才協会の芸人の話が多かったようです。老若男女様々な年齢層の芸人が集まる漫才協会。最近では、高校生の娘と父親の親子コンビ「完熟フレッシュ」も入会。最若手15歳から最高齢85歳のナンセンス岸野師匠まで、幅広い人材が一堂に集まっております。
これだけ色々な芸人が集まれば、中にはお別れする芸人も。去年亡くなった内海桂子師匠をはじめ、「新山ひでや・やすこ」のひでや師匠、ナンセンス原田師匠。そしてこの度「東京丸・京平」の東京丸(あずまきょうまる)師匠がお亡くなりになりました。
かつてはNHK新人漫才コンクールで、あのツービートを倒して最優秀賞を獲得。勢いのある漫才を披露していたそうですが、私が漫才協会に入った頃にはゆったりとしたテンポに変わっていました。舞台も日常も。
お会いするたびに「金谷ヒデユキです。よろしくお願いします」と挨拶していたのですが、何度挨拶しても覚えてくれない。「誰だ?この人」って顔をされちゃう。二十回くらい挨拶くりかえした頃ようやく覚えてくれたようで、師匠から笑顔が返って来ました。「やったー!覚えてくれたー」と喜んだのもつかの間、次の日にはまた「誰だ?」って顔。その繰り返しが続き、三十回目にしてようやく私の事を覚えてくれたようです。仏の顔も三十度。
それからは積極的に師匠の方から話しかけてくれるようになり、「いやー迫力のある舞台ですねー」「ウケてましたねー」とお褒めの言葉。楽屋でお会いすると「今日はあなたのファンがいっぱい来てますよ。客席にギャルがいっぱいですよ」というボケを毎回頂いてました。「いや、客席にギャルいないでしょ。お婆さんばっかりですよ!」強めに突っ込むと嬉しそうに笑ってたなあ。
舞台に出ると♪チャンチャンチャチャンチャンチャーン、チャンチャンチャンチャンチャーンという謎のフレーズを繰り返し、客席ギリギリまで前に出て客をハラハラさせていた京丸師匠。漫才中ネタを忘れてしまい客をハラハラさせていた京丸師匠。よく使うフレーズですが、「ネタでボケてるのかホントにボケてるのか分からない」究極の漫才でした。
最終的には人間そのものの面白さ。生きてる事が面白い。そんな事を教えられた気がします。訃報が伝わった日も、楽屋では他の芸人たちがそれぞれ寂しそうな顔をしながらも、舞台に出ればみんな笑顔。悲しい時こそ笑顔で。そういう世界にいられて幸せだなと実感しました。いつか自分が消えてなくなる日も笑顔でお別れしたい。残った人たちに泣かれるよりも笑われたい。芸人だもの。みつを(偽名)。