金銀に輝く布、重厚感溢れるジャガード、蜻蛉の羽のような軽量布‐千変万化する布を創造し続けた夢織人が逝った。先月末、テキスタイルプランナー新井淳一さんの通夜に参列。布に囲まれた遺影は若々しかった。
桐生の機屋に生まれ、家業に従事後も精力的に表現活動を展開。日本を代表するデザイナー三宅一生さんらと独創的な布を作り、その名を世界中に轟かせた。新井さんとの出会いは20年以上前。前職の美術館勤務時代、作品を借りに幾度となくご自宅にお邪魔し、記者になってからも色んな話を聞かせてもらった。瞳をキラキラさせながら布への思いを語る姿は、まるで少年のようだった。
一見、華々しくみえる人生。が順風満帆だった訳ではない。事業に躓き、病に侵された。それでも創作意欲が衰えなかったのは妻であり版画家であるリコさんの存在があったからに他ならない。葬儀の数日後、リコさんが話してくれた言葉が忘れられない。「新井は美しい布を作ることで世界平和を作るという、とてつもない夢を追い続けていました」 夫婦として、同じ表現者として、深い愛と強い絆を感じずにはいられない。
「布作りへの挑戦は死ぬまで尽きない」 最愛のリコさんや家族らに見守られながら旅立った夢織人は生前、力強くこう語っていた。「まだ見ぬ布」を追い求め、黄泉の国でも創生の火種を燃やし続けていることだろう。享年85歳。合掌。
(中島美江子)