消された記憶[4月27日号]

前日までに予約が必要という展覧会に出かけました。5月5日まで開催中の「消された記憶」展。会場のギャラリー「コンセプトスペース」(渋川)は、長屋式アパートを使った空間です。主宰する彫刻家の福田篤夫さん(60)が「初めての人だね」と迎え入れてくれました。

靴を脱いで上がったのは、壁を白く塗った十畳の和室。福田さんが36年前、「住まう」「制作する」「企画する」「展示する」の四つを同一地平で考えるという概念で開き、当初6年は夫妻で暮らしたといいます。

洗濯物を干していた部屋が、午後には展示室や制作場所に。建物は立派でも企画に乏しいと揶揄された地方美術館建設ブームの逆を張り、国内外の作家の展示を約180回企画。他に例のない会場を多くの海外作家が「ファンタスティック!」と喜んだ。そんな話を、他の観客と車座で聞きました。

今回の展示はいわくつきです。県立公園に建つ朝鮮人労働者追悼碑を、前橋の美術作家・白川昌生さんが布などで模した作品。昨年4月から県立近代美術館で展示される予定でしたが開幕直前、同館の指導で撤去されました。

本来は直径約7メートルの円形に広がる作品ですが、今回は部屋の幅に収まらず隅が折られ、形はゆがんでいます。「もっと広い美術館が展示を申し出てくれると良かったのだけれど」と福田さんは申し訳なさそうです。いえ、そんなことない。このゆがみは、現代美術の置かれた状況と、過去の記憶を消したり改ざんしたりする動きを鋭く表現し、唯一無二の機会になっていると思うのです。(朝日新聞社前橋総局長 岡本峰子)

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