「投手が非常に良く頑張り、守備もしっかり守ってくれた。『負けない野球』ができたことが日本一の要因ですね」
先月14日に臨んだ独立リーグ日本一を決める頂上決戦。平野謙監督率いる群馬ダイヤモンドペガサスは四国アイランドリーグplusの覇者、香川オリーブガイナーズとのグランドチャンピオンシップ(GCS)を3勝1分で制し、2年ぶり2度目の独立リーグの頂点に輝いた。王手をかけて臨んだ第4戦は、一時逆転を許す苦しい試合展開だったが、投打で粘りを見せ、勝利を引き寄せた。2016年、低迷していたペガサスの監督に就任。その年にチーム初の日本一を果たし、今季、再びGCSを制した。チームを再建した名将に、日本一への道のり、独立リーグや選手への思いなどを聞いた。
【負けない野球を展開】
Q今季日本一になった気持ちを聞かせて下さい
我々の地元である前橋市民球場で、日ごろ応援してくれたファンの方々の前で日本一になれたことは大きいですね。選手たちが頑張った結果で、選手にとっていい経験、自信になったと思います。私はベンチで見ていただけですが(苦笑)。
Q2016年の初制覇とは一味違いますか
前回のメンバーとは全く違いますが、優勝の感慨は変わらないですね。シーズンが変わると選手が入れ替わり、未知なところからスタートします。集まって1カ月で公式戦。試合をしながらチームの戦い方を探っていきます。今季は不安材料が多かったのですが、選手が試合を通してどんどん上手くなっていきました。ある意味予想外の成績でしたね。
Q王手をかけて迎えた第4戦。選手にどんな言葉を掛けましたか
普段は強気な言葉は使わないんですが、前日の試合で引き分けたこともあり、「本当に今日で決めるぞ!」と選手たちに檄を飛ばしました。選手たちも「負ける気がしない!」と頼もしかったですね。ただ、どんな強いチームでも負ける時は油断した時。現役だった西武時代、近鉄にリーグ優勝をさらわれたことがありましたが、その時も敗因は心の緩みでした。ですから、気を引き締めるためにも日ごろは控え目な発言を心掛けています。
QGCSでは中軸打線が打てない場面もありました
3番の井野口祐介(桐生商高出身)はシーズン中に不振で6番に下げたこともありましたが、ここまで頑張ってきたんだから、そのうち打つだろうと打順を変えませんでした。最終的に第4戦で井野口はホームランを打ってくれました。
Q第4戦、先発トーレスが九回2死二塁から四球。マウンドに向かいました
トーレスが早く試合を終わらせたいという感じが出ていて、リズムが悪くなっていたので「投げ急がないように」と落ち着かせました。詰めが甘いとろくなことがないですからね。
Q日本一の要因は
投手が非常によく頑張り、守備もしっかり守ってくれた。「負けない野球」ができたことが一番の要因ですね。勝とうと思うと無理なプレーをしてしまう。「普段通りすれば負けない」という気持ちが持てれば、うまくいけば勝てる。そのことを常日頃から選手たちに伝えています。
【ベテランと若手刺激し合うチーム】
Qどんなチームづくりを目指しましたか
独立リーグの選手たちはチームとしての目標はありますが、個人の目標は実に様々です。NPB(プロ野球)を目指す選手、将来アマチュアの指導者を志す選手、いずれ家業を継ぐことは分かっているけど、もう少し野球を続けたい選手…色々います。個人の目標に向かってやりやすいようにすることが第一の目標。選手がこのチームを卒業した時、一人ひとりが自らの思惑に近づけたと感じてもらえたら達成感がありますね。
Q今季、成長した選手は
富田光孝(農大二高出身)や荻野恭大(桐生西高出身)ら、特に若い選手が頑張りましたね。一方で33歳の井野口は、35歳のカラバイヨとリーグの本塁打王と打点王を争い、キャリアハイの成績を残しました。2人とも、「若いやつらに負けるか!」って感じで (笑)。ベテランと若手がうまく刺激し合い、いい形のチームができましたね。
Q今季を振り返って印象深い試合を教えて下さい
ルートインBCリーグのチャンピオンシップ(CS)の福井戦ですね。昨年CSで信濃に負けてGCSに進出できなかったので。昨年は主砲のカラバイヨが不在でしたが、今年はフルメンバーだったので、何としても勝たないといけないというプレッシャーがありました。
【選手と一緒になって勉強】
Qチーム低迷期で監督を引き継ぎました
1年ペガサスのコーチをしていましたが、ほかにやる人がいなかったんじゃないかな(苦笑)。弱いチームを引き受けたので逆にプレッシャーはなかったですね。負けたら負けたで、やっぱり弱いんだというだけですから。
Q就任3年で東地区3年連続優勝、2度のリーグ制覇と日本一という輝かしい成績を収めました。どう立て直しましたか
特別なことは何もしてないんです。変えた部分といえば、まずグラウンドであいさつをする、最初のウォーミングアップの声出し、全員で一緒に走る、これを徹底しました。チームの一体感を大事にしています。基本の積み重ねで、選手たちの意識も少しずつ変わっていったのかもしれないですね。
Q独立リーグの楽しさは
NPBでの経験を少しでも伝えられたらと思っていますが、逆に選手たちから教えられることも多いですね。思いもよらない意見を聞くこともあり、びっくりというか。色々と気付きがあり、面白いですね。ある意味、NPBに毒されている部分があるので凄く新鮮。一緒になって勉強しています。
Q理想の監督像は
自分の考え方や方針を押し付けるのはではなく、うまく選手を使いこなすのが監督の役割だと思っています。そのためには、一人ひとりの状況や置かれている環境などを全て把握しなければなりません。ですから、練習はもちろん、食事に誘うなどして選手個人との対話を心掛けていますね。
Q座右の銘は
私が6歳の時に病気で亡くなった父親が、6歳上の私の姉に宛てた手紙の中に「人を憎まず自分を見捨てず」と書かれていて、その言葉を色紙などに書くようにしています。自身の教訓にしていますが、グラウンドでは、選手たちに「全力」でやるよう指導しています。
Qファンの存在とは
NPBと大きく違うのは、試合後、お客さんを見送り、交流することですね。地域に愛されるチームにならなければいけません。あと、私の方針ですが、選手の親兄弟、恩師や友人が来た時には、日ごろ試合に出られない選手でも出すようにしています。アマチュア的な考えですが、見に来た方に一人でも多く喜んでもらえるようにしています。
文・撮影 林哲也