今秋、前橋のカネコ種苗ぐんまフラワーパークで、昭和をテーマに当時の生活用品や自動車などを展示する企画展が開かれた。その中で一際目に入ったのが映画看板。オードリー・ヘプバーンの美貌が際立つ「ローマの休日」、野性味あふれる三船敏郎の迫力ある殺陣を描いた「用心棒」…どの作品も生き生きとした役者の表情、特徴を捉え、色合いも鮮やかでその世界に惹き込まれていった。
作品を描いたのは、映画全盛の昭和30年代に映画看板絵師として活躍した北村勝英さん(84=前橋)。映画館には飾られないが、当時の技法で描き続ける“現役”の絵師だ。絵具を作るために使う膠の香り漂う自宅には、これまで描いた作品がびっしり並ぶ。「年相応の格好だと絵も老けちゃうからね」と若々しい服装に軽妙な口調で思いを語ってくれた。
私自身一度は新聞業界を離れ、建具職人の世界に飛び込んだこともあった。不器用さが仇となり1年余りで挫折したが、北村さんは80歳を超えた現在も精力的だ。映画と絵を心から愛し、追求する職人の生き方に脱帽する。
来年4月に平成も終わり、昭和はさらに遠くなる。北村さんのような絵師の技術は受け継がれないのかもしれない。かといって、時代とともに移り変わることが悪いとも思わない。ただ、忘れ去るのではなく、思いや考えをすくい取り、活字で伝え残していくことが私たちの役割ではないかと感じる。言葉を紡ぐ“職人”を目指して精進したい。
(林哲也)