自転車マウンテンバイク(MTB)女子 東京五輪代表 今井 美穂 さん

「延期をプラスに捉え、しっかりとコンディションを整えて代表の名に恥じないような120%の走りでゴールを目指したいですね」

「選手生活の集大成として、東京五輪では悔いのない走りをしたいですね」と笑顔で語る今井美穂選手=高崎市内

「オリンピック選手になりたい!」 そんな夢を33歳にして叶えた今井美穂さん(富岡出身)。自転車MTB(マウンテンバイク)女子の東京五輪代表にして、小学校の先生という2つの顔を持つ。MTBを本格的に始めたのは30歳から。仕事と競技を両立させながら、わずか3年という短期間で大舞台への切符を掴み取った。現在、11月に開催される全日本選手権に向け練習に励む。群馬県で、東京五輪代表第1号となったトップアスリートに、東京五輪やMTB競技への思いなどを聞いた。

【とにかく決まってホッとした】

― 6月に東京五輪出場が正式決定しましたが、その時のお気持ちを聞かせて下さい

とにかく決まってホッとしました。日本の東京五輪MTB代表枠は男女とも1人のみ。2位以降の選手との獲得ポイントは離れていたとはいえ、新型コロナウイルスの影響で3月以降の選考対象レースが全てストップしてしまい、選考基準が変わってしまったらどうしようという不安が常にありました。正式に決まって、本当に嬉しいですね。

― 代表に決まった時、所属チームや勤務先の小学校など周りの反応はどうでしたか

「報道、見たよ」とか「先生、良かったね!」など家族や友人はもちろん、同僚や教え子、保護者の方からも沢山、声をかけて頂きました。ラインにも、ひっきりなしにメッセージが入ってきて本当にビックリ(笑)。全日本や世界選手権に出場してもマイナー競技ということもあってそこまで大きな反応はありませんが、オリンピックとなるとこうも違うのかと。その凄さを改めて実感しました。自分が思っていた以上に多くの方が応援して下さっていたことに気付き、感謝の気持ちでいっぱいです。

【もう、楽しくて楽しくてしょうがない】

― 大学まで陸上選手として活躍していましたが、自転車競技を始められたのはなぜでしょう

オリンピックを夢見て陸上を続けていましたが、ずば抜けた才能がなかったので諦めざるを得ませんでした。卒業後、子どもが好きだったこともあり教職に就き、通勤の一手段として自転車に乗るようになりました。たまたま以前から知り合いだった仲間に誘われ一緒に走るようになってからは、もう楽しくて楽しくてしょうがない(笑)。25歳の時、初めてシクロクロス大会(オフロードでスピードを競う自転車競技の一つ)に出場しましたが、そこで優勝し完全にスイッチが入りましたね。

― その5年後、30歳の時にシクロクロスと並行してMTB競技を始めました

MTBが東京五輪種目だと知ったからです。「オリンピック選手になりたい!」という小さい頃からの夢が叶うかもしれないという一心で、2017年の夏から本格的に取り組みました。シクロクロスをやっていたので自信はあったのですが、思っていた以上に難しくて2017年のMTB全日本選手権では優勝できず2位。めちゃくちゃ悔しくて、「次は絶対に勝ちたい」と1年間みっちり練習し、2018、2019年の全日本選手権で連覇することが出来ました。

【勝ちに行くことだけに集中し努力し続ける】

― 五輪代表になるには選考レースで国内最高ポイントを獲得する必要がありましたが、仕事との両立はどうされたのですか

昨年4月、「オリンピックを目指したい!」と学校を始め、職場の同僚や教え子、保護者の方などに伝え、国内だけでなく海外遠征にも行かせてもらえるようお願いしました。色んな方に迷惑がかかるのを承知で宣言してしまった以上、もう後には引けません。「絶対に負けられない、東京五輪に出るしかない」と必死で国内外のレースを走り、ポイントを重ねてきました。日頃から子どもたちに、「やらなきゃいけない時は、とことんやりなさい!」と檄を飛ばしていたので自分もやるしかなかったですね(笑)。こうして代表になれたのも、周囲の人のおかげ。支えてくれた人たちに恩返しできるような、納得のいく走りをしっかりしたいと思います。

― 練習時間はどのように確保しているのでしょう

平日はフルタイムで勤務しているため帰宅後の2~3時間、舗装路を走ったり室内でローラー練習をしています。休日は5~6時間、榛名山麓の急勾配の坂道や県外コースなどでトレーニングを積んでいますが、他の選手に比べて練習時間が圧倒的に足りていません。ただ仕事と自転車、両方あるからこそ集中しなくてはいけないし、メリハリをつけて効率よくメニューをこなせているとも思います。

― 練習をする上で心掛けていることは

メンタル、テクニカル、フィジカルを鍛えるには、地道にコツコツやるしかありません。経験上、「イメージ出来たことは、必ず出来る」と信じているので、やるべきことを明確にして勝ちに行くことだけに集中し努力し続けることが大切。とはいえ常に集中し続けることも難しいので、とことん追い込む時と、緩く自由に自転車に乗る時のオンオフをしっかりつけるようにしています。

【小さい頃からの夢舞台でやりきりたい】

― 来年に延期された東京五輪への思いを教えて下さい

本当なら代表選考の2カ月後にオリンピックを迎えるはずでした。それまでかなりストイックな生活を続けていたので、これをあと1年続けるのは年齢的にも精神的にも正直、キツイなとは思いましたね(苦笑)。とはいえ昨秋、東京五輪プレ大会で世界トップクラスの選手たちと五輪コースを一緒に走ったのですが、恐怖感から完走出来ずじまい。フィジカル、メンタル、スキル、どれも足りていませんでしたから、予定通り本番を迎えていたらベストな走りは出来なかったかもしれません。延期をプラスに捉え、しっかりとレベルアップをしてコンディションを整えて代表の名に恥じないような120%の走りでゴールを目指したいですね。

― 群馬の皆さんにメッセージを

新型コロナウイルスが未だ終息しない中で、オリンピックをやるのはどうかという声があるのは当然だと思っています。来年、開催されるかどうかも分かりません。ただ、そんな状況の中でも応援して下さる人がたくさんいます。私自身もスポーツの力って凄いなと感じていますので、開催されることを信じ、しっかりと準備をして本番に臨みたいですね。小さい頃からの夢舞台であるオリンピックで、やりきりたいと思っていますので、応援よろしくお願いします。       (文・写真 中島美江子)

■プロフィール
【いまい・みほ】さん

1987年富岡出身。富岡東高校卒業後、東京女子体育大に進学。大学4年、陸上の関東学生対抗選手権の七種競技で8位入賞。大学卒業後、教職に就く。通勤のために始めた自転車に魅了され、2012年からシクロクロス(オフロードで行われる自転車競技の一つ)に出場するように。2017年、シクロクロス全日本選手権で優勝。同年夏からMTB(マウンテンバイク=急斜面や岩場、障害物などが配置されたオフロードを走る自転車競技の一つ)を始め、2018、19年の全日本マウンテンバイク選手権クロスカントリーで連覇を果たす。2020年アジア選手権で日本人最高の5位入賞。今年6月、自転車MTB(マウンテンバイク)女子の東京五輪代表に選出された。安中の自転車専門店「CO2bicycle」のクラブチームに所属。前橋市立新田小学校教諭。前橋在住。

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