画業と地域活動に情熱注いだ画家の足跡を振り返る
当館では、1995(平成7)年の開館以来、継続して郷土ゆかりの作家を紹介してきました。今回は、長年県立高等学校の美術教師として教鞭をとる傍ら、地域の文化活動にも取り組んだ仁木(渡邉)和夫(1943~2012年)の画業をご紹介します。
仁木が油彩画の制作を始めたのは、群馬大学を卒業し、安中高校に新任教師として赴任した頃でした。興味を持ったことには徹底的に取り組む性格だった仁木は、寝食も忘れて作品制作に没頭し、ほどなく二紀会を中心に発表するようになります。その後も、富岡東高校(現在は富岡高校に統合)、富岡高校、みやま養護学校での多忙な教員生活の中でも画材や技法の研究を重ね、作品を描き続けました。
県内でも大作を制作することで知られていた仁木ですが、二紀展で優賞を受賞した縦3m×横2mの作品を屋外に丸めて保管していたところ、絵とは思わない何者かに持ち去られてしまったというエピソードも残っています。
仁木の主な作品のテーマとなったのが、フラメンコ音楽です。「音楽が感じられるような絵を描きたい」と語っていた仁木は、1990年代には荘厳なゴシック聖堂を背景に躍動的なフラメンコダンサーを配した作品を次々と発表します。これらの作品では、無数の細かな点描が大きなうねりとなり、まるでひとつのメロディーを奏でるように画面全体を覆っています。まさに、仁木の情熱と技術が結集した作品と言えるのではないでしょうか。
こうした制作の一方で、市民を中心とする富岡美術会の活動に加わった仁木は、桑の木を使った木炭の開発や市民を対象とした絵画教室を開催するなど、地域の芸術文化の振興にも力を惜しみませんでした。2011年に始まった富岡市民美術展でも、実行委員として展覧会の実現のために力を注ぎました。仁木を突き動かしたのは、地域の芸術活動が衰退していくことへの危機感と強い使命感だったに違いありません。
本展では、二紀展に出品された油彩画の大作を中心に、仁木の画業と地域への功績を振り返ります。寡黙で誠実な人柄の中に秘められた仁木の情熱を感じ取っていただければ幸いです。