電 話[3月24日号]

「ねえ、ちょっと聞いてよ」 東京で一人暮らしをする長女から、時々電話が入る。長電話を「またか」と面倒に感じることもある。
内容は、最近あった出来事や仕事の愚痴など様々。「直属の男性上司が育休を取得して相談できる人がいない」とか、「高校時代の友人が出産してお母さんになっていてビックリ」などなど。でも、本当はもっと迷っていることがありそうだ。
彼女が今の仕事に就いたのは、まだ就職難だった3年前。美術大学を卒業後、都内の証券会社で働き続ける傍ら、時間を確保して趣味のマンガを細々と描き続けている。当然、生活はカツカツ。そこで、私の両親である祖父母宅の1Kのアパートに家賃交渉をして暮らし始めた。畑違いの仕事や慣れない都会生活。さらには、何者になったらいいのかという葛藤が見え隠れする。
筆者が就職したのは男女雇均法制定の翌年でバブルの頃だ。結婚を機に東京から群馬に来た自分とは、時代や生活の場も全く違うが、人生の次の一歩を踏み出そうともがく悩みは昔と共通している気がする。
先の連休に思い立ち、リンゴで大量にジャムを作る。ビンに「byママ」と書いて送ってみた。もし、「着いたよ」と電話があったら、大昔にハイヒールを履いて足が痛くなったことや、告白してフラれた母の苦い体験談と共に、毎日仕事に一生懸命な娘を少しだけほめてあげよう。

(谷 桂)

掲載内容のコピーはできません。