私は普段オペラ歌手として、国内外の公演に出演しています。2年前に二期会から藤原歌劇団に移籍し、先月帝国ホテルで開催された「フィガロの結婚」に出演、同歌劇団デビューを果たしました。今年の秋冬は、文化庁主催オペラで、関東の小中学校約20校を回ります。
公演活動と同じく力を入れているのが、歌の指導です。5年前から県内に音楽教室「アトリエ・ガヴォー」を構え、県内の3つの合唱団や愛好家など約80人に技術的なことはもちろん、音楽の素晴らしさや歌うことの喜びを教えています。交通の発達のお蔭で群馬を拠点できるようになり、「故郷に少しでも本物の音楽が届くなら」「クラシック音楽がより盛んになれば」という思いで、忙しい日々を乗り切っています。自分が媒介となり、これまで経験してきたイタリアや西洋の音楽、芸術、並びに文化や習慣、そして情景が伝われば…と思いますが、なかなか容易にいかないところです。病気もそうですが、経験してないことは分かりにくいものです。
スキンシップが少なく、隠すことを美徳としてきた日本人。情報や物に恵まれている現在の日本では、逆に本質的なことが見えにくくなっているのかもしれません。引きこもりや自殺、家族でさえも殺めてしまうのは、情報や物では幸せを感じられないことを物語っているのでしょう。
「有難い」も難が有ると書くように、感謝をもって些細なことや災難でさえも幸せを見出すことができれば、心が柔軟となりストレスを受けにくくなります。それには、五感を鍛える「真・善・美」に触れることが大切です。感受性や想像力を豊かにするものの一つに音楽がありますが、特に歌を歌うことは脳も刺激するのでストレス発散にもなります。
「わが故郷に、音楽や歌を愛する人たちがもっともっと増えて欲しい」 そんな願いを抱きつつ、発声や音楽的なことのみならず、心を動かすこと、豊かにすることのお手伝いができるように、これからも公演活動や歌の指導に邁進していきたいと思います。