戦後75年目の夏

戦争の記録問いかける 平和の尊さ

終戦から75年という節目を迎える今年。戦後生まれは総人口の8割を超え、戦争の事実は体験ではなく遠い過去の記憶となりつつある。二度と戦争への道を選ばないために、戦争の記録を、これからの未来にどう遺していくべきか――。今週は、戦争の愚かさや平和の尊さを問いかける資料展や映画上映会、記録冊子などを紹介する。

日中戦争から終戦直後まで
写真や軍服、紙芝居など51点

館林第一資料館 23日まで

飛行場での特攻隊の様子を写した展示写真

館林市立図書館内にある館林第一資料館では、戦時中の館林の情勢や人々の生活を収蔵資料で紹介する「戦時下の人々」を開催中。23日まで。昭和初期から戦後にかけ撮影した写真パネルのほか、出征時に必需品を入れた「奉公袋」、中島飛行場の「航空機増産現場指導書」、市民から寄贈された初公開の婦人会のたすきなど全51点が並ぶ。

同市出身の郷土史家・福田啓作(1878~1969)が日々の出来事をつづった「福田啓作日誌」には、戦時下の館林の様子が克明に記されている。同市文化振興課の橋本恵理佳さんは「体験者が減り、語り継ぐことができない昨今。展示によって当時の人々に思いをはせ、改めて戦争と平和について考える機会にしてもらえたら」と期待する。同館(0276・74・4111)。

一方、同展示室の一角には、市の非核平和推進事業の一環で「平和のためのパネル展 ヒロシマ・ナガサキ原爆写真」を同時開催。原爆投下直後の市内の様子を写した写真パネル(広島平和記念資料館所蔵)など約20点を展示し、戦争や原爆の恐ろしさを伝えている。16日まで。同市秘書課(0276・72・4111)。

当時の資料を通して戦時下の
人々の暮らしぶりを感じて

中之条で9月23日まで

従軍看護婦の制服など貴重な資料が並ぶ会場

戦争の記憶を次世代に伝えようと、中之条町歴史と民俗の博物館「ミュゼ」は9月23日まで、企画展「語り継ぐ戦争~前橋空襲と戦時の暮らし~」を開催中だ。

今展では1941年12月8日の太平洋戦争開戦を伝える新聞号外や1942年8月5日に木炭生産奨励のため沢田村反下(現・中之条町)の炭窯を視察した東条英機首相の写真、兵士の士気向上につながるとされた軍事郵便など約150点を紹介している。

また、今春閉館した前橋のあたご歴史資料館が所蔵する前橋空襲の写真や米軍が前橋に投下し

戦時中の様子を、柔らかなタッチと色彩で描いた鈴木ひでさんの絵手紙

た焼夷弾、従軍看護婦の制服に加え、出征兵士を見送る人々や防空壕に避難する住民などを描いた中之条出身のイラストレーター鈴木ひでさん(94)の絵手紙なども展示し、当時の様子を伝えている。同館の山口通喜館長は、「終戦から75年目を迎え、戦争を体験した人々と対話をする機会は失われつつあります。写真など貴重な資料を通して、戦時下の人々の暮らしぶりを感じて欲しい」と話す。一般200円ほか。同館(0279・75・1922)

「戦争資料で見る
戦前・戦中下のくらし」

大泉町公民館 20日まで

中島飛行機㈱小泉製作所爆撃の様子

大泉町公民館ホールでは、戦前から戦中の町の歴史を振り返る「戦争資料で見る 戦前・戦中下のくらし(町教委主催)」を開催中。20日まで。

同町では5年前、戦後70年として開催した企画展に多くの反響があり、再開催を望む声が寄せられたことから、今回の展示につながった。町には東洋一の大工場ともいわれた、海軍機を生産する「中島飛行機株式会社小泉製作所」があったため、戦時中は軍需都市として数度にわたり米軍による空襲を受け多くの被害が出た。同展では、町で見つかった不発弾「500ポンド爆弾」や木製プロペラの実物展示、写真パネルなど、個人や町が所蔵する戦争関連の資料約70点で戦前から戦中の町の歴史を振り返る。入場無料。同町教育委員会生涯学習課(0276・63・3111)。

戦争テーマの4作品を上映
「終戦、75年目の夏。」

高崎電気館 23日まで

「塚本晋也プロフィール」© SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER
『東京裁判』© 講談社2018

高崎電気館では戦争をテーマにした映画作品を上映する「終戦、75年目の夏。」を開催中。4作品が上映され、16日には塚本晋也監督によるリモートトーク(先着)が予定されている。23日まで。

同館では5年前から、毎年8月に戦争をテーマにした作品の上映を行ってきた。今年は、8万人を超す広島市民がエキストラとして参加し、原爆投下直後の惨状を描いた「ひろしま(1953年)」、ピーター・ジャクソン監督が、第1次世界大戦の記録映像を再構築して製作したドキュメンタリー「彼らは生きていた(2018)」、大岡昇平の小説を実写化した塚本晋也監督渾身の一作「野火(2014年)」、4時間半を超える長編ドキュメンタリー映画「東京裁判(1983年)」の4本を上映する。1作品1000円。東京裁判のみ2000円。高崎電気館(027・395・0483)。

前橋空襲を題材にした
紙芝居を窓ガラスに投影

前橋文学館 15日まで

紙芝居「前橋空襲と奥野とめ子さん」の一場面

前橋空襲犠牲者の一斉慰霊の関連イベントとして、前橋市は空襲を題材にした紙芝居を前橋文学館の窓ガラスに投影している。15日まで。

紙芝居は、前橋学市民学芸員養成講座(同市主催)を受講した市民学芸員の一人が作製。前橋空襲のあった翌日、空襲の惨状を嘆いた一人の女性が戦争終結を天皇に直訴しようと前橋から単身列車で皇居へ向かったというエピソードを題材にしている。この女性、奥野とめ子さんのエピソードは2017年に遺族から証言を記した手紙が前橋市に寄せられたことをきっかけに、市が聞き取りを行い講座などで紹介してきた。今年、この話を広く知らせようと市民学芸員が紙芝居を作製。当初は施設などでの紹介を想定していたが、コロナ禍でその機会がなく今回の投影となった。担当者は「戦時下を生きた前橋市民の思いを少しでも感じてもらえたら」と話す。午後5時半~9時。文学館・広瀬川側の外観窓。市文化国際課(027・898・6992)。

前橋空襲と原爆のミニ展示

前橋市役所&図書館 18日まで

前橋市役所1階では18日まで、前橋空襲や広島・長崎の原爆投下の様子などを紹介するパネル約20点を展示。大胡支所、清里公民館、永明公民館でも順次開催。一方、市立図書館や分館では23日まで、戦争や平和、前橋空襲、原爆などの関連資料を集めた特設コーナーで貸出を行っている。同市生活課(027・898
・6237)、同市立図書館(027・224・4311)。

前橋空襲伝えたあたご歴史資料館の歩み1冊に

前橋市住吉町二丁目自治会

記録冊子発行

今年3月に閉館した、あたご資料館(前橋市住吉町)の歩みをまとめた冊子「記録でつづるあたご歴史資料館 ひと まち れきし」が完成した。前橋空襲や戦前戦後の地域の様子をつづった文章、戦後の生活を振り返る対談などを紹介している。

同館は同町二丁目自治会が、前橋空襲を後世に語り継ぎ広く発信していこうと2012年に開館。市民らから集めた貴重な資料や写真を展示するなど、会員らのボランティアで運営してきた。だが、人手不足とスタッフの高齢化により今春、惜しまれつつ閉館した。
冊子は、館の7年4カ月の軌跡を記録に残そうと、空襲の体験者で同館学芸員だった原田恒弘さん(82)をはじめ運営に携わったスタッフら9人が執筆。非売品で、町内の住民に配布したほか、市内の図書館や学校などにも寄贈した。同自治会長で館長だった柿沼孝さん(80)は「町の皆さんからの反応も良く、今まで館がやってきたことが集約され形になったことは感慨深い。一人でも多くの人に読んでもらえたら」と話す。収蔵品は旧スタッフや今後の展示を検討する会らが整理作業を行っており、その後市に引き継がれる。また、現在資料の一部を中之条・ミュゼの企画展に出展中(上部記事参照)。

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