教えてくれる人
前澤 哲也 さん 『超基本・文章講座 (下)』
スマホの普及でメール、ブログ、ツイッターなど文章を書く機会が大幅に増えました。また、自分史や家族史をまとめたいと思う人も多いと思います。でも、文章を書いていると様々な壁に当たります。その壁を越えるためのちょっとした工夫を伝授したいと思います。
文章は「料理」である
前回は対象を、視点を変えたり、具体的なものに置き換えたりしての、一味違う文章の書き方をご紹介しましたが、今回は文章の組み立てについて書いていきます。
文章を書く基本は、「メモを取ること」。つまり、素材の収集ですね。そして、それらを分別し何をメインとするかを考えます。どうさばくか、さらに、どんな構成にするか、これは調理と味付け。最後に対句や体言止めなど表現技法を駆使しますが、これは盛り付けといっても良いでしょう。つまり、文章を書くことは料理とよく似ているのです。
まずはメモから
本を読んだ時、旅行に行った際などに、感心したこと、「おや?」と思ったことは、すかさずメモしてみましょう。メモの中から文章の中心になるネタを得られます。また、繰り返すことで観察眼を鍛えることもできます。
26年前、私は観光旅行が許可された直後のサハリンを訪れメモを取り続けましたが、その中から特に気になった、博物館の庭で見た古い大砲について『サハリンの巨砲』と題して雑誌に掲載してもらったことがあります。
日露戦争当時の史料に当たり、戦前サハリンに住んでいた方にもお聞きして原稿用紙10枚ほどにまとめたところ好評でした。執筆・調査はとても楽しいものだと、このとき初めて知りました。
また、料理との共通点になりますが、楽しみながらやれば結果は必ずついてきます。楽しみながら作った料理はおいしいし、楽しみつつ書いた文章はきっと読み手の心に響くと思います。メモの中に「楽しめる」素材があればそこから書き始めましょう。一気に筆が進むはずです。
比喩表現はわかりやすく
個性が出る表現技法の筆頭は「比喩」でしょう。直喩・隠喩・擬人法と3種類あり、「~ような」の直喩がよく使われますが、陳腐な比喩は逆効果になる場合も多い。一読して誰にでもわかり、かつ斬新なものが理想ですが、わかりやすさを優先した方が良いでしょう。
冬の津軽を旅して寒風にさらされながら日本海を見たことがあります。色に関するボキャブラリーが貧弱なため海の色を的確に言えず考え込んでいたら、同行の友人が「この海って、水彩画を描いた筆を何度も洗った容器の水の色と似ているな」と。なるほどと思いました。色名事典にあたれば、的確な色名は分かるでしょう。でも、友人の直喩はわかりやすさという点では素晴らしい比喩だったと思います。
時には変化球を投げてみる
2年前の夏、歴史教育書を書いている友人の取材に付き合って、栃木県佐野市の田中正造生家に行きました。庭には樹齢150年という百日紅の巨木が見事に花を咲かせていました=写真左。正造翁も見たであろう木をしみじみ眺めていると、友人がスマホで百日紅の花言葉を調べ、そこには『雄弁』とありました。
足尾鉱毒事件に生涯を捧げ、「亡国に至るを知らざれば之れ即ち亡国の儀につき質問書」で日本史上に残る名演説をした田中正造にこれ以上ふさわしい花言葉はないでしょう。その符合の素晴らしさに感動した友人は、田中正造生家紹介の文章に百日紅の写真と花言葉を書き添えました。印象的で奥深い文章となったことは言うまでもありません。
書こうとする対象についての様々な情報から特に興味深いものを添える、つまり直球だけでなく「変化球を投げてみる」と一味違った文章が書けるという一例でした。
上下と2回わたり、文章を書くちょっとしたコツをお伝えしてきましたが、上達するにはとにかくまずは書くこと。さあ、メモ帳をもって、あなたも楽しみながら個性的な文章を書いてみませんか。
まえざわ・てつや/1959年太田市生まれ 中央大学卒業後、松竹シナリオ研究所で映画シナリオを学ぶ。以後、「朝日ぐんま」記者や塾講師をしながら、近代軍事史を研究。『日露戦争と群馬県民』(煥乎堂)で第42回群馬県文学賞(評論部門)、『帝国陸軍高崎連隊の近代史』(雄山閣)で第15回日本自費出版文化賞(研究・評論部門)を受賞。現在、学習塾講師・家庭教師として主に小論文や国語、社会の指導に当たる