俳優
中島 広稀さん
野田秀樹作・演劇「カノン」主演 高崎で来月17日
群馬県在住の俳優・中島広稀さんが、野田秀樹作の演劇「カノン」で主役に抜擢され、今月25日から東京で公演が始まった。来月17日には高崎芸術劇場公演に登場する。14歳で俳優となり、NHK朝ドラ「べっぴんさん」などテレビや映画、舞台へと活躍の場を広げてきた中島さんに、役者を目指したきっかけ、演劇「カノン」という作品への思い、地元群馬公演への意気込みなどについて聞いた。
―コロナで一度中止になって1年半越しの上演が決まりました
昨春、中止になってから、やっとここまで来たという感じです。稽古の時間が増え、一緒に過ごす時間が長くなったので、スタッフやキャストがお互いのことを良く分かってきました。初めのころ、演出家の野上絹代さんが「人に気を使いながら、自分の気持ちを真摯にぶつけ合おう」と言ってくださったこともあり、ビックリするくらい風通しがいい稽古場になっています。毎日、楽しく稽古に励んでいます。
―オーディションはいかがでしたか
受けるにあたり、原作の「カノン」を読み、さらにベースとなっている芥川龍之介の小説「偸盗」も読みました。「両方とも、本当いい話だな」と舞台に参加したい気持ちが強くなって来ました。
これは本当に恥ずかしい話なんですけど…オーディションの際、何組かに分かれてディスカッションをしながら一つのシーンを作り上げるという課題が与えられました。話し合いでも、発表でもみんなそれぞれが自分自身の強い思いや熱意をぶつけてアピールしていました。その時、ボクは何一つ発言できず、動くこともできなかったんです。
本来、そのシーンを作るのが目的であるはずなのに、「自己アピールばかりをするのは違うんじゃない?」という思いでいっぱいになりました。とうとう、その思いが爆発して「みんな一度落ち着いてよ」と舞台上で「地団駄」を踏んでしまって。そしたら、会場がシーンとなりました。感情に任せて取った行動だったので「わあ、やっちゃった!オーディションを台無しにしてしまった!」と帰り道は落ち込みました。もうちょっと大人な行動ができたら良かったですよね。
―結局は、主人公の太郎役に決まったのですね
「終わった」と思っていましたが、なんと主人公の太郎役に決まりました。オーディションを受けた俳優さんは1200人くらいいたと聞いています。その中から、よく選ばれたなと。「地団駄」が良かったのかもしれません。実際どうなのかは聞いていませんが(笑)。
―主役「太郎」をどのように演じたいですか?
「太郎」は、牢番として働いている屋敷の雇われ人です。愚直で真面目ですが、意志が弱く周りの環境に流され、みるみる変わっていきます。さとうほなみさん演じる捕らわれの身の「沙金」に心を奪われ、牢から逃がしてしまう。どれだけ真面目に生きていても自分が正しいと思っても、ひょんなことから人生が崩れていく、その変化が観ている人に少しでも伝われば良いなと思っています。
―演じる上で心がけている点は
長いセリフや叫ぶシーンが多いのですが、以前は、頭で考えながら演じていました。でも、最近は、ボクの中から「太郎」という人物が飛び越え、俳優同士の掛け合いの中で意図しない要素も入るようになりました。
また、野田さんの戯曲はボクにとって、なじみのない言葉もたくさんあり、セリフも難しいのですが、野田さんは「テンポ感」をすごく大事にされています。音楽のようにリズム感を大切にしたセリフの言い回しを、常に心掛けています。
ほかにも、渡辺いっけいさんをはじめ、沙金のさとうさんなどベテランの俳優陣が惜しみなく力を注いでいるのを目の当たりにして、負けてはいられないなという気持ちです。
―俳優になったきっかけは?
中2のとき、遊びに行った原宿でスカウトされ、チャンスがあるのならやりたいと、芸能界に飛び込みました。そこから監督や役者の皆さんと出会っていく中で、自分もその中で生きてみたいと思い、今に至ります。
―群馬県在住なのですね
稽古の時は東京まで通っているんですが、そんなに遠くはないですよ、1時間半くらいですから。役者としては、群馬に住んでいるからこそ出せる匂いや雰囲気があるかなと思っています。群馬の食べ物では、うどんが大好きです。他には、ケバブ。大泉には行きつけの店があり、よく食べにいきます。
―運動も得意とか
身体を動かすのが大好きで、じっとしていられないのです。小学校の時から、バスケットボールやバレーボール、野球、サッカー、スケートボード、スノーボードなど6種目くらいやりました。毎年冬は、みなかみ方面にスノボに行って、群馬の雪山を楽しんでいます。
コロナ中にも身体を鍛えたくて、自宅にだいぶトレーニングマシーンが増えました。野上さんは「言葉」よりも「身体」で表現できることを重視していて、ボクもいつ、どんな注文が入ろうと、すぐに身体が動かせるように準備しています。趣味のスポーツが、舞台にも活かせたらいいなと思います。
―群馬のファンにメッセージを
「カノン」という舞台が高崎でできるというのはとてもレアなことだと思うので、群馬の皆さんもぜひ観に来てください。東京の舞台も観比べて、両方楽しんでくださったらもっと嬉しいです。地元の皆さんが来てもらえるのが今から楽しみで気負っていますが、落ち着いて頑張ります! (文・谷 桂)
■野田秀樹作・演劇「カノン」
【東京芸術劇場・公演】 8月25日から9月5日まで(30日休演)。全席指定一般5000円。開演時間など詳しい問い合わせは、東京芸術劇場ボックスオフィス(0570-010-296)やHPへ。https://www.geigeki.jp/performance/theater278/
【高崎芸術劇場・公演】 9月17日午後6時開演、全席指定、一般5000円。25歳以下2000円。(未就学児の入場は不可)。同チケットセンター(027-321-3900)。http://takasaki-foundation.or.jp/theatre
※状況により予定は変更になることがあります。