県内中学・高校 女子生徒の制服
ジェンダーレス、LGBTQ、防寒・防犯などさまざまな目的で
中高生女子の制服としてスカートではなくスラックスの着用を認める学校が、ここ1、2年で増加中だ。以前から、防寒や利便性を目的に導入している学校もある。加えて、近年話題に上る「ジェンダーレス」や「LGBTQ」(性的少数派)の問題に対する取り組みとして制服着用に関するルールを見直す動きが全国的にも進んでおり、これらの情勢をふまえ、県内の中学や高校でもスカートかスラックスかを選択できるようになってきた。県内の女子スラックス事情を取材した。
※ジェンダーレスとは…「男らしさ」「女らしさ」など男女の役割の違いによって生まれる「社会的性別」をなくそうという考え方。
独自路線の私立高校
県内私立高校は導入のきっかけや目的などが様々だ。
高崎商大附高は、女子スラックス着用が増えてきた社会の風潮を鑑み、昨年度、スカートと選択できる形で採用。スラックスを愛用しているという同校の福島愛結さん(16=2年)は、「暖かいし、デザインもかわいい。『女子はスカート』という常識が変わりつつあると感じる」と話す。また、富來歩佳さん(17=同)は「群馬は風が特に強いので、通学時にめくれる心配がない。友達の中には『スタイルが良く見える』『暖かそう』と言って実際にスラックスを履くようになった人もいる。スカートをはきたくないと感じる人にとっても選択できるのは良い」と喜ぶ。2人とも利便性やデザイン面に加え、ジェンダー平等の側面からも高く評価した。
常磐高(太田)は、LGBTQの生徒に配慮しようと、2004年の制服デザイン一新を機にいち早く女子用スラックスを導入した。
新島学園中・高(安中)は生徒会から「LGBTQの観点から男女の服装分けを改めた方がよいのではないかとの発案もあり、今年度から正式に女子の制服をA(従来の男子用上下)とB(従来の女子用ジャケット+新スラックス)から選択できるようにした。
東京農大二高(高崎)は、生徒の要望でタイツ着用を検討する中、スラックス導入案が浮上。14年冬に防寒用として導入、昨年度からは通年での着用を認めた。
全公立高校で選択可能に
今年度、県内の女子が在籍する公立高校56校すべてで、女子の制服でスカートかスラックスかを選択できるようになったという。県教育委員会によると、昨夏の調査では約7割だったが、前年度取り入れていなかった学校も全て今年度から選択可能とした。各校オリジナルのデザインを採用する学校もあれば、市販のスラックス着用を認めている学校も。これまでも、防寒対策として冬場にスラックス(市販)を認めていた学校も一部あったが、大半はスカートしか選択肢のない学校が多かった。ここ数年でジェンダー平等やLGBTQへの配慮への機運が日本全体で高まってきたことを受け、各校が積極的に取り組みを進めてきた結果だ。
県教委高校教育課生徒指導係長の高橋章さんは「防寒や自転車通学の利便性向上などに加え、性的少数者の生徒への適切な配慮という観点からも望ましいことだと認識している」と話す。
公立中学でも今秋続々
公立中学でも、続々と女子スラックスの導入が進んでいる。老舗制服専門店ツナシマ(高崎)によると、昨春に高崎の中学が導入を始めると、それに追随して市内の他校へ、さらに他の市町村へも広がりをみせているという。同社の綱島仁美代表取締役社長は「この一年で急速に広がってきた。各校とも、実際に着用する生徒がいないかもしれないが選択できるようにしておくことが大事、という姿勢が見受けられる。今は寒い時期の着用がメインだが、今後は正装として入学式から着用可能とする学校もさらに増えていくのではないか」と話す。
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女子スラックスの話題は、LGBTQの生徒への配慮として取り上げられることが多い。しかし、必ずしもそればかりでなく、防寒、防犯、利便性など目的は多岐にわたることがわかった。学校生活を送る上で制服の選択肢が増えるようになったことは、男女平等を始め多様な性や個性などを認め合う社会の実現への大きな一歩だと言える。今後は学校だけでなく社会全体としても、様々な価値観や境遇を認め合うようになればと思う。 (上原道子)