アーティストましもゆきさん
郷里・前橋で初個展
黒の線画で濃密な世界を描くましもゆきさん(37=前橋)の個展「黒を抱(だ)く」が、前橋のヤマトギャラリーホールで4月10日まで開催されている。昨秋受賞した企業メセナ群馬芸術文化奨励賞記念展で、郷里での個展は初めてだ。今展では花や蛾、魚などをモチーフにした約20点を発表。シンプルな色彩と緻密な線で描かれた作品は豊潤で、見る人の想像力を大いに掻き立てる。デビュー作から最新作まで独創的な線画を創造するましもさんに個展への思いを聞いた。
モノクロームの線画で濃密な世界を創造
ー郷里前橋での個展は初めてです 私も家族も大喜びです。美術館でも画廊でもない、企業が運営するギャラリーは美術好きに限らず、様々な方が来て下さるので嬉しい。
ー黒白の線画で表現していますね
子供の頃から漫画が好きでしたが、家族は否定的(苦笑)。卒業制作を漫画的技法で描いたのは幼少期の自分を救済したかったのかもしれません。デビュー以来、丸ペンとインクで描いていますが、黒白の画面はイメージが制限されず、想像の余白があるところも気に入っています。
ー花や蛾、鳳凰、魚などモチーフは多彩ですが、作品の核となるテーマは
美しさ、怪しさ、不気味さ、恐ろしさなど多面性を持つモチーフに惹かれます。テーマは一貫して誰もが生きる原動力になっている「欲望」。良くも悪くもそれこそが人間の本質で、描くことで自分を肯定したいという気持ちが強い。作品を観た人に多様な世界観や救いのようなものを感じてもらえたら良いですね。
ータイトルの「黒を抱く」に込めた思いは
初期から最新作まで全作品に共通しているのが黒という色。全ての色を内包する黒は、豊かで慈悲深い。今までの軌跡、「欲望」の全てを抱きしめて、今ここから新たに生きていくという決意を込めました。
ー緻密な線画はどのように生まれるのでしょう
下絵はほとんど描かず、その時の心情を吐露した散文的な言葉を基に制作していきます。抱えているものを吐き出す、自分の感情に仇を取るというイメージ(苦笑)。「欲望」を言語化するため、意識的に本を読んで語彙を増やすようにしていますね。
ー制作上、心掛けていることは
自分の本音と正直に向き合うこと。どんなに気に入らなくても許せなくても必ず完成させて、その時の自分を受け入れるようにしています。描くことで色んな欲望を消化し、昇華させていく感じ。自分が何を描きたかったかが分かるのは、何年も経ってからが多いですね。
ー来場者へメッセージを
私にとって作家活動を始めた初個展が最初の転機で、郷里での初個展は2度目の大きなターニングポイント。コロナ禍で開催が1年延期され、制作にじっくり向き合うことで色んな気付きが得られましたね。今まで天邪鬼的な生き方をしていたのですが、今展を機に自分の人生をより良くしたいと素直に思えるようになりました。「アーティストとして生きていく!」と決意させてくれたデビュー作から「自分を大切にしよう」と思わせてくれた最新作まで、約15年の変遷を会場で観て貰えると嬉しいです。
(聞き手 中島美江子)