「今まで歩んできた画家としての『生業』を観て、感じてもらえたら嬉しい」
花やバレリーナ、猫などをモチーフに、華やかで躍動感あふれる表現世界を創造するアーティスト渡辺香奈さん(41=高崎)の個展「私のしごと‐油彩×富岡桑木炭デッサン」が、前橋市古市町のヤマト本社1階ギャラリーホールで開催されている。2020年度に受賞した「企業メセナ群馬芸術文化奨励賞」の記念展で、前橋での個展は初めてだ。スペイン美術留学で人体解剖学や古典技法などを学び、帰国後は県内外の美術館やギャラリーでダイナミックな油彩や精緻(せいち)な木炭デッサンを発表する渡辺さんに、初個展や作品制作への思いを聞いた。 (中島美江子)
油彩と木炭デッサン 華やかで精緻な約30点を発表
―今展の展示構成を教えて下さい
初期作品からスペイン留学で習得した技法を活かした花とバレリーナの油彩、富岡の養蚕農家が作る桑木炭で描いた新作デッサンまで、約30点を発表しています。Perfect World シリーズと称した2メートル近くある大作が中心で、元新国立劇場プリンシパル・長田佳世さんの協力を得て誕生しました。ダンサーの究極の肉体美を捉えるのは難しかったのですが、その分、挑戦し甲斐もあり充実感も大きかったですね。一方、桑木炭では蚕の守り神とされる猫などを描いています。桑木炭には様々な縁と偶然が重なり巡り会えたので、今展ではデッサンと共に入手に至るプロセスも写真パネルで紹介しています。
―富岡桑木炭との出会いを教えて下さい
帰国後、日本には画材用木炭の太さの種類がスペインほど揃っておらず困っていました。コロナ禍で生まれた時間を利用し、理想の木炭を見つけようと一念発起。半年余り探し回ったところ偶然、富岡の養蚕農家さんが作る桑木炭に辿り着いたのです。直径2センチ程の桑木炭は、コントロールしやすく黒も濃くて温かみのある色合いが特徴。恐らく、この太さの木炭は国内唯一でしょう。
―モチーフはどのように選んでいるのですか
「これが描きたい」と駆り立てられるものを描く。意識的に自分の欲望に忠実に「我が道を行く」ようにしています。特にバレリーナは、究極の肉体を描きたいという願望がありました。また、絵の中に登場する花などは主に庭のものを使っています。画家とモチーフには対象が見えやすくなる、ちょうど良い距離があるのです。
―個展のテーマ「私の仕事」に込めた思いは
帰国してから8年、回顧展とするのはまだ早く、留学後の仕事を振り返るというスタンスがちょうど良いなと感じ、「私のしごと」というタイトルにしました。ワークという意味合いも勿論ありますが、どちらかというと「生業」というニュアンスが強いですね。「絵描きが社会とどう関わっているのか」という部分も含めて観てもらえたらと思います。
―制作上、心掛けていることは何でしょう
戦略的に制作することは重要ですが、それ以上に「誠実に描く」ことを大切にしています。野球の打者は当然、練習をしてからバッターボックスに立ちますよね。そこで、素振りから始める人はいません。たくさん練習したからこそ、ヒットやホームランが打てる。絵描きも同じで、いっぱいデッサンして鍛錬を重ねてから本番に臨む。「やるべきことをきちんとやる」というスペイン留学で学んだ当たり前のことを大事にしています。
―来場者へメッセージを
ビビットな色と大胆な構図で花やダンサーを表現したバレリーナシリーズと、猫の髭や犬の毛並みを細部に至るまで精緻に描いた富岡桑木炭デッサンで構成しました。会場では、桑木炭と一般的な柳木炭が比較できるように同一絵柄の作品を並べて展示したりライブデッサンを行うなど、養蚕から出た桑木炭の魅力を多角的に伝えています。今まで歩んできた画家としての「生業」を観て、感じてもらえたら嬉しいですね。
わたなべ かな/80年生まれ。慶應大大学院メディア研究科修了後、大手電機メーカー勤務を経て作家活動をスタート。2009年に日動画廊昭和会展で松村謙三賞、10年に上毛芸術文化賞など数々の賞に輝く。12年文化庁新進芸術家海外派遣でスペインに美術留学し人体解剖学や古典技法などを学ぶ。帰国後、県内外で精力的に作品を発表
■個展「私のしごと 油彩×富岡桑木炭デッサン」
前橋のヤマトギャラリーホールで26日まで
小品から大作まで約30点を展示。前橋のヤマトギャラリーホールで6月26日まで開催中。土日祝日は休館だが、渡辺さんによるライブデッサンが行われる25、26日は開館。入場無料。同ギャラリー(027-290-1800)。