朝日新聞は、群馬県版から開いてみて

朝日新聞東京本社編集委員(大衆文化・芸能担当)兼前橋総局員
小泉 信一 さん (61)

朝日新聞で気になった記事を読むと「これ、やっぱり小泉さんだ」と最後の署名を見て納得する。「真面目な記者というよりは、ユニークな物書き」を想起させるのが、朝日新聞東京本社編集委員であり昨年から、前橋総局員を兼務する小泉信一さん(61)。

映画「男はつらいよ」の主人公・寅さんや昭和歌謡、演歌、歴史、民俗学、温泉など取材範囲は幅広い。豊富な取材経験を生かして「群馬県版をもっと面白くしたい」と意気込む。「遊びが大事。何かに囚われていると面白くならない。常に自分を自由に」と既得権益を嫌い、大衆文化を掘り起こし、群馬県民が「知らなかった」とうなる記事を連発している。

1988年、朝日新聞社に入社後、記者人生最初の勤務地が前橋支局(現総局)。結婚後、91年には北海道の根室通信局に赴任する。北方領土問題や拿捕(だほ)、密漁事件など、国家に翻弄され矛盾を抱えている漁師を取材。一面を飾った国際的スクープも。「頼るのは自分しかいない厳しい中での国境記者だった」と振り返る。異動の際には、地元紙が一面で「小泉記者、明日根室を去る」と見送った。

95年に東京社会部に戻った時、デスクから勧められたのが、「下町記者」。「誰も書いていない下町に飛びついた」と告白する。

その後、2000年に「寅さんをやらないか?」と社内で声を掛けられ、取材に取り組む。「山田洋次監督を何十回も取材し、渥美清の親友だったコメディアンの関敬六さんとも親しくなった」と振り返る。さらに、俳優や裏方のスタッフにも話を聞くと、「渥美清は亡くなったが、寅さんはまだまだ生きている」ことを感じ、その世界にのめりこむ。

13年には寅さんが恋して失恋もした「マドンナ」のインタビュー集「寅さんの伝言」(講談社)を出版。マドンナを演じた大女優たちが、熱心に取材に応じたのには驚いたという。「いしだあゆみさんは取材中、ぽろっと涙をこぼした」「吉永小百合さんが『コメントの表現を直して』と、直接電話をかけてきた」。山田監督については、「女優さんの性格を見抜いて役柄を当てはめたから、マドンナたちにとっても寅さんは思い出深い特別な作品になったのでしょう」と小泉さんは力を込めた。

今年6月、前橋総局で開かれた読者向けイベント「総局記者サロン」では、小泉さんが講師を務めた。得意の「男はつらいよ」にまつわる取材エピソードを映像や音声とともに披露し、読者との交流は大いに盛り上がった。「朝日新聞の紙面では、群馬県版がダントツに面白い。宮嶋加菜子総局長や総局員みんなが地域の話題を書いている。記者サロンで、読者との距離も近くなった。これからも、さらに記者の顔が見えるようにやっていきたい」と語る。

知的好奇心をかきたてる記事は、ルーティーンな日々に変化を起こし、心躍る刺激をもらえる。朝日新聞を手に取ったら、群馬県版から開いてみてはどうか。小泉編集委員をはじめとする前橋総局のワクワクがきっと伝わってくるはずだ。  (谷 桂)

次回の記者サロンは「未確認生物の精神史/彼らが生まれた時代背景」をテーマに、10月下旬開催予定。「ぜひお越しを!」と呼び掛ける小泉編集委員。
※詳細は後日、朝日新聞県版で発表

こいずみしんいち

1961年神奈川県川崎市生まれ。88年、朝日新聞社入社。最初の赴任地が前橋支局(現総局)。91年から北海道の根室通信局。北方領土問題などを取材する「国境記者」。東京社会部では下町文化を担当。東京本社編集委員。大衆文化・芸能担当。銭湯・温泉巡りは年間100軒以上。著書に「東京下町」「東京スケッチブック」「おーい、寅さん」「寅さんの伝言」「裏昭和史探検」など多数。

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