国際クラシックカーラリーで日本人として初優勝

伊香保おもちゃと人形自動車博物館館長
横田 正弘さん

今年9月に、地中海に浮かぶイタリアのシチリア島で開催されたクラシックカーラリー「Raid Dell’Etna(ライド・デル・エトナ)」で、伊香保おもちゃと人形自動車博物館(吉岡町)の館長・横田正弘さん(69=前橋)が優勝した。今大会は3年ぶり3度目の挑戦だった。クラシックカーラリーの世界戦で、日本人として初の快挙を成し遂げた横田館長に思いを聞いた。

トロフィーを日本に持ち帰って掲げる横田館長

よこた・まさひろ/1953年高崎生まれ。5歳で前橋に転居。大工として働きながら、前橋工業高定時制で学ぶ。建設会社を起業し独立。その後、年商10億円の会社をたたみ、94年に伊香保おもちゃと人形自動車博物館をオープン。2018年モンテカルロヒストリック(モナコ)出場。アメリカやタイ・カンボジアの海外ラリーなどにも出場。イタリアのラリー「ライド・デル・エトナ」で日本人初優勝。クラシックカーイベントも主宰する。

イタリアのラリーで初優勝
―イタリアの大会で優勝しましたね
モータースポーツの本拠地ヨーロッパを舞台に、日本人がラリーに挑戦して、優勝できました。伊香保おもちゃと人形自動車博物館の館長として、日本でクラシックカーラリー「スプレンドーレ」を主宰している者として、歴史あるイタリアで念願が叶って、とてもうれしいです。

―クラシックカーに興味を持ったのはいつからですか?
小学生の頃から車が好きでしたが、その後、自分の好きなことを仕事にしたいと考え、1994年におもちゃやクラシックカーをテーマにした「伊香保おもちゃと人形自動車博物館」を開館しました。国内のラリーにも度々参戦して優勝するようになり、2018年には、モナコで行われたラリー「モンテカルロヒストリック」に挑戦して完走しました。他にも、イタリアやアメリカ、アジアなどのラリーに挑戦し、世界戦11回目でやっと優勝しました。

―大会について教えてください
ラリー「ライド・デル・エトナ」は、1997年に始まり、今年で27回目です。今回は、イタリア、アメリカ、スイス、ブラジルなど世界12か国から68台のクラシックカーが参戦しました。古代遺跡の残る景勝地や山道、市街地など島の公道を舞台に、9月25日から10月1日まで表彰式を含めて6日間、約1200㌔を走るハードな競技です。

2019年に参戦した際には、最終日前日に車のミッションが壊れてしまうトラブルがあり、悔しい思いをしましたが、「1位になれる可能性はある」という感触をつかんでいました。3年ぶり3度目の挑戦の今度こそは、という思いで出場。クラシックカー文化の本場という舞台で、「日本人も優勝できるところを見せたい」「突破口を自ら開きたい」と心に決めていました。

優勝した翌日には、イタリアの新聞が何紙も「エトナで日本人の横田が初優勝」と報じてくれました。大会に名前が刻まれたのが光栄です。

―どのような車両でしたか?
1937年製のランチア アプリリアというイタリアの車両です。エンジンが1100㏄と非常に小さくてパワーは無いんですが、この車に昔から憧れていました。戦前に作られた車なので、壊れたり故障することも多々ありますが、ラリーでは、古い車ほどハンディが付くんです。

これまで、名ラリーに出場しているヒストリーのあるこの車で参加したいと、3年前から現地でも準備を整えていましたが、コロナで渡航できなくなり、今回ようやく機会がきました。

―どのようなルールですか?
区間ごとに決められた時間で走り、その正確さを競うルールになります。例えば20㍍を5秒で走るという設定があると、基準線から基準線までを、5秒ぴったりで入れば減点はゼロです。1000分の1秒まで計れる「PC計測」によってカウントされるのですが、コースの山道には、上り下りがあって、そこの技術が本当に難しい。60区間を走って、合計の誤差が一番少ない人の勝ちということになります。

ただ、一番怖いのはミスコースをすること。日本と標識が違い分かりづらいこともありますが、外れたら大きく減点になり、優勝はあきらめなければなりません。競技パートナーの大木悦子さんが同乗してナビゲートをしてくれたおかげもあって、初日からトップになりました。

―これまでどんな練習を?
「1秒の感覚」を研ぎ澄ますように体内時計を感じるトレーニングをしていました。自宅にも1000分の1秒まで細かく計測する機械を持ち込んで、例えば5、4、3、2、1、0とボタンを押しながら、等間隔のフラットになるようにカウントする練習をしていました。0・05秒ずれても、「これは違う」と認識できるようになったんです。また、18年間国内大会に出場し続けたことも、海外大会の練習になっていたと思います。

相次ぐトラブル
―ラリーの様子を教えてください
大会には3回目の参加ということもあって、落ち着いて臨み、初日からトップを維持し順調でした。ところが、5日目の競技が終わって、ホテルに帰るところで、車のエンジンから急に煙が上がり、出火する事態になったんです。キャブレターという装置のフロートという部品が壊れてしまい、ガソリンが漏れ出して引火し、燃え上がったのです。消火器を使い、必死で火を消しましたが、「あー、もう終わった。これで競技はリタイアだな」とがっかり。4日目までは首位をキープしていたので、天国から地獄に落ちた気分でした。

ところが、主催者の協力により、車が運ばれた地元の整備工場は、運良くクラシックカー専門店だったのです。2人のメカニカルの方が、「日本人を完走させたい」といって一生懸命作業に取り組んでくれ、奇跡的に直りました。その上、彼らは「お金いらない」というんです。大会直前に現地で消火器を購入したことも、ついていた。運が良いことが重なりました。修理して、夜になりホテルに帰ったら、参加者の皆さんが、びっくりしていました。

―表彰式は盛り上がりましたか?
ラリーは、ひやひやの連続でしたが、表彰式は、祝福の拍手に包まれました。日本もイタリアもライバルだったことも関係なく、皆さんが「おめでとう」と祝ってくれて。さらに嬉しかったのは、会場に、修理をした工場の社長さんが来てくれて、「良かった良かった」と言いながら喜んでくれたことです。思わず一緒に写真撮りましたよ。社長やメカの方々の人柄はもちろんですが、クラシックカーをリスペクトするイタリアというお国柄もあると感動しました。

ところが、まだ続きがあって、帰りのフェリー乗り場で、またガソリンが漏れてしまい、手で押しながら車を乗せたなんてこともありました。とにかくいろんなドラマが詰まっていました。

―今後の予定は?
優勝を達成して、ラリーは一区切りがつきましたが、日本に帰国して少し時間が経つと、気持ちに変化が起こってきました。皆さん、笑わないでください。「エトナで2連勝したい」と新たな勝利を狙って燃えている自分がいるんです。年齢を考えると体力の限界ではありますが、あくなき戦いが始まりそうです。私が挑戦をすることで、若い人にも夢を与えられたらいいですね。日本人の作ったクラシックカーの歴史を誰かが語ってくれたらさらにうれしいです。

今後は、車好きが集まるカフェを作ろうかなと思っています。ヨーロッパにあるような、おしゃれなカフェで、2連覇の後にクラシックカー談議に花を咲かせられたらいいですね。(谷 桂)

山道や市街地などイタリアの公道を走る館長のランチア アプリリア
ゴールのゲートをくぐった瞬間
ゴール後、喜びを表す

【伊香保おもちゃと人形自動車博物館】 国内を代表するアミューズメントスポット伊香保おもちゃと人形自動車博物館(横田正弘館長)は、懐かしいおもちゃやテディベア、昭和の街並みを再現したレトロな横丁をはじめ、クラシックカーや人気漫画「頭文字D」に登場の「藤原豆腐店」、ゴーストハウスなどを展示する。家族連れから誰でも楽しめる複合ミュージアムになっている。年中無休。一般1300円、中高生900円、4歳から小学生以下450円。

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