「自分は大丈夫」先入観捨てて
「人を信じる気持ち」や「家族を心配する気持ち」を踏みにじる卑劣な特殊詐欺が増加している。群馬県内の特殊詐欺被害額が約4億6110万円(2022年1~11月末まで、暫定値)に上り、昨年同期に比べ、約9130万円も増えていることが分かった(県警による)。被害はどうして起こるのか、また詐欺に遭わないようにするにはどうしたら良いのかを県警察本部に聞いた。 (谷 桂)
自己チェックで知ろう
誰でもだまされる可能性がある
Q どのような人が被害に遭いやすいのですか?
県警(以下省略)「私は大丈夫、ウチはお金がないから」と言いながら、被害に遭ってしまう高齢者が後を絶ちません。「オレオレ詐欺被害者の被害に対する意識調査」(2018年警察庁による全国調査)では、95・1%が「(どちらかといえば)自分は被害にあわないと思っていた」と回答していますが、だまされてしまうのです。
先日の被害者は、キャッシュカードを封筒に入れてすり替える「キャッシュカード詐欺盗」の手口を、数日前にちょうどテレビの特集で見たそうです。「この人は、何でだまされるのか?」と思っていたのに、いざ自分のところに電話が架かってきて、犯人が自宅にやって来ると、キャッシュカードを渡して、暗証番号も教えてしまったのです。「暗証番号を聞くことはない」と知っていても、自分のことになると、あわてて注意が頭から抜け、相手に言われたとおりにしてしまう。「市役所」や「銀行」、「金融庁」などの公的な肩書を信用してしまうことも原因です。
年齢では、65歳以上の高齢者がほとんど。その中でも、80歳以上が大きなウエイトを占め、男女別では女性が圧倒的に多いのです。詐欺なのに「銀行です」と言えば、疑いもしないで鍵を開けて入れる。中には、受け子を居間に上げて、お茶を出し、「息子がお世話になります」とお菓子やビールのほか数万円の小遣いまで渡している人もいます。
息子を騙(かた)るオレオレ詐欺が最多
Q 最も多い手口は何ですか?
県内の特殊詐欺被害(11月末まで)195件の中でも、息子や孫など親族を騙ってだます「オレオレ詐欺」が77件で一番多く、被害額も約1億8190万円で最大です。続くのが、先ほどの「キャッシュカード詐欺盗」で66件、約8890万円。続いて、キャッシュカードや通帳をそのまま渡してしまう「預貯金詐欺」が27件、約4030万円。この3つの類型で約9割を占めます。
パソコンがウイルス感染していると驚かしてお金を請求する「架空料金請求詐欺」は、発生件数13件とそれほど多くないですが、1件当たりの平均被害額は1千万円超、合計被害額が1億3740万円と額が大きいです。
そのほか、還付金が受け取れると言って、ATMに誘導して金を振り込ませる「還付金詐欺」が11件で約1120万円の被害額です。だまされ「恥ずかしい」と被害届を出さない人もいるので、これらは氷山の一角かもしれません。
Q 犯人はどのような人ですか?
犯人は1人ではなくグループが多く、「劇場型」というやり方で様々な役割に扮して完全分業しだますのです。「息子騙りのオレオレ詐欺」の場合ですと、まず、病院の医師役が「息子さんの喉にポリープができていたので手術しました。麻酔で声がおかしくなっている」と電話が来る。次に息子役が「オレだけど」と電話を架けてきてだます。前の話があるから声が違っていたとしても不審に思わないでだまされてしまうわけです。
「架空料金請求詐欺」については、被害額が大きい。老人ホームの入居権の話で、住宅メーカー役が電話で「老人ホームに優先的に入れる権利がありますが、その権利を譲っても良いですか?」という。後日、金融庁役の者が電話を架けてきて、「名義貸しは犯罪ですよ。解決金を払いなさい」と騙る。「私だけはあなたの味方です」と言いながら弁護士役から電話がある場合もあります。一番被害が多額だった人は、4300万円を宅配便で送ってしまったので気を付けてください。
一番の対応策は防犯機能付きの電話機設置
Q 撃退方法はありますか?
犯人はほとんど固定電話に架けてきますので、防犯機能付きの電話機を設置することが一番です。固定電話機に後付けできる「電話対策装置」もあります。
防犯機能付き電話機とは、ボタンをONにしておくと架かった際に音が鳴らないで、その間に「犯罪などの被害防止のために通話内容を録音します」と警告メッセージが流れます。すると犯人は電話を切ってしまうことが多く、鳴らないうちに撃退できるのが、この機械の特徴です。正月、実家に帰省したときにでも、電器店で購入して設置してみてはいかがでしょう。市町村では、補助金や貸出しなど対策事業を行っているところもあります。また、県内の各警察署では無料で「電話対策装置」の貸出もしているので、ぜひ検討してください。
Q 実際に電話が架かってきたらどうすれば?
詐欺の電話が架かってきたら、110番通報してください。だまされなくて済んだ時も、すぐに110番通報してください。警察が一刻も早く把握することで、次の被害が食い止められます。また、だまされたふりをして、「分かった」と電話を一旦切り、110番通報していただくと、警察官がすぐに現場に行って捕まえられます。犯罪を減らすためにも、皆様のご協力をお願いします。
電話機の設置は、一番効果があるのでぜひ検討を
電話機(左)と後付けの「電話対策装置」を持つ県警生活安全部の高草木勉警部。電器店では、1万円前後で購入可能。県内の各警察署では、後付けの装置を無料貸出中