新年、明けましておめでとうございます。
新春にふさわしい雅やかな音色の和楽器。今号では、和楽器の魅力も交えて、群馬ゆかりの和楽器奏者を紹介します。
和楽器ってどんなもの?
和楽器とは、日本の伝統的な音楽に用いられます。日本の楽器のほとんどは、大陸から伝えられたもので、様々な歴史を経て定着、発展し、日本の伝統芸能を作り上げてきました。宮中を中心に伝承されている「雅楽」や江戸時代以降に発達した三味線音楽や箏曲、民謡、流行歌など民間で演じられる音楽いわゆる「俗楽」で使われています。
楽器の種類・・洋楽器と同じように、管楽器と弦楽器、打楽器があります。
管楽器
雅楽でよく使われる「笙」や横笛「竜笛」、「篳篥(ひちりき)」。祭りや民俗芸能、歌舞伎に用いる「篠笛」など。
弦楽器
雅楽のほか民間でも発展した「箏(こと)」。歌の伴奏楽器として江戸時代に完成した「三味線(しゃみせん)」、「胡弓」など。
打楽器
神社の祭礼に使う宮太鼓などの「和太鼓」。手で打つ「小鼓(こつづみ)」「大鼓」 。雅楽で使われる金属製「鉦鼓」(しょうこ)など多種多様。
東野 珠実さん
正倉院復元楽器でよみがえる古代の音色
高崎市出身の作曲家であり笙奏者の東野珠実さん。奈良東大寺の正倉院に収蔵された楽器を復元して、遡ること約1300年前の時代に臨むコンサート「星筐(ほしがたみ)抄~甦る古の響き~」を昨年10月に高崎音楽祭の一環として高崎芸術劇場で上演した。
雅楽以前にどのような音楽が奏でられていたのかが分からない中、東野さんが新たな作品を作り出すことによって、現在から「過去」をよみがえらせる試みに挑戦した。当日は、雅楽の古典曲や新作を正倉院復元楽器で演奏し喝采を浴びた。
東野さんは、小学3年の時、学級歌を作曲し、音楽を創造する楽しさや喜びを知ったという。その後、「音楽の世界で生きていきたい」と高崎女子高校から、音大の作曲学科に進学。様々な音楽やコンピュータを使った最先端の楽器に触れる中で、現存する最古のオーケストラともいえる「雅楽」や「笙」に興味を持つ。現在は、国立劇場や国内外の公演に出演し、古典はもとより、ヨーヨー・マや坂本龍一らに招聘され、創作・演奏などジャンルを超えた活動を展開する。雅楽演奏団体「伶楽舎(れいがくしゃ)」のメンバーとしても、日本古来の伝統の音色で聴衆を魅了。笙の響きを生かした自身の作曲「景 Scenes of Spirits」を含むブラスアンサンブルZEROのCDが、昨年11月に専門誌で特選盤に選出された。
今年は、新日本フィルハーモニー交響楽団との共演や中之条ビエンナーレで彫刻家三輪途道(みちよ)とコラボを予定。「いにしえの響きを現代の創造へと展開する取り組みをさらに推進したい」と東野さんは意気込む。
笙
笙は、雅楽で演奏される管楽器。古代中国・殷の時代の記録に現れ、漢時代に日本に伝えられた。日本の楽器の中では唯一和音を奏でることができる吹奏楽器であり、呼気と吸気のいずれでも音が出る仕組みになっている。全長約50㌢。17本の真竹製竹管が、帯で固定されている。正倉院には、笙の二倍長となる竽(う)などの楽器が残されている(=写真下)
■とうの・たまみ 高崎女子高卒、国立音大作曲学科首席で卒業。雅楽を芝祐靖氏、笙を豊英秋氏、宮田まゆみ氏の両氏に師事。慶応大大学院政策メディア研究科修士課程を修了。ソロ活動のほか、伶楽舎に所属し古典曲や復元楽器の演奏、現代音楽の作曲に携わる。2021年国立劇場雅楽声明専門委員主査。
東野珠実HP: https://shoroom.com/
星筐の会HP: https://www.hoshigatami.com
鈴木 創さん
日本の楽器、「箏」の魅力を発信したい
新春と言えばお箏。雅やかに十三絃が、ポン、ポン、ポローン…と響くと、気持ちが改まるという人も多いのでは。生田流箏曲宮城社大師範として、ソロはもちろん様々な規模や編成の合奏など県内外の舞台で活躍する箏曲家鈴木創さん(47)。前橋市中心市街地に構える新築のお稽古場からは、心地よい箏の音が聴こえてくる。
母親の影響で幼少期から箏に興味を抱いていたが、大正・昭和期に活躍した作曲家・箏曲家の宮城道雄氏作曲の「春の賦(ふ)」の合奏を、演奏会で聴いた。1000年以上も前から続いている日本の楽器、箏の奏でる音色に感動して、小学生の頃から習い始める。15歳で助教の資格を取得し、県立前橋高校入学後もお箏と三絃(三味線)の両方に取り組む。その後、立教大学を卒業し、祖父の経営する大手建設会社に勤務。しかし、30代後半のころ体調不良に。「それまで会社や周りのことばかりを考えていましたが、初めて自分の幸せを考えたとき、やはり、『お箏』をやりたい自分がいると分かりました」と鈴木さんは語る。会社を退職して箏曲家としての歩みを始めた。
「日本の音をあなたのそばに。」をコンセプトに、これまで群馬県内をはじめ、都内などでも演奏。今月2日には、「正月遊び・新春コンサート」をまちなかサロン(前橋)で開催した。ほかにも、門人に稽古をつけたり、学校にも招かれて箏の普及に努めている。「コロナで世の中がアクセルを踏むのを躊躇しているが、今年は様々なイベントや動画発信、SNSなども使って、日本文化や箏を発信していきたい」と抱負を話した。
箏
漢字では「箏」と書く。本来「箏」と、絃の数が少なく柱(じ)のない「琴」は楽器が異なる。本体は桐の天然木、柱は象牙やプラスチック、絃は絹糸やテトロンを使っている。大きくアーチ形になった本体の中は空洞。裏に二つの穴があり音が響く。写真上は十三絃だが、低音の音色が出せる十七絃もある。
■すずき・はじめ 生田流箏曲宮城社大師範。前橋市生まれ。10歳で川端光永師に入門し、15歳で職格を得る。現在、群馬県内を中心に各地で演奏活動を行う他、後進の育成にも努める。地歌古典曲や宮城道雄作品を中心に演奏を行う。箏曲宮城会、日本三曲協会会員。温故和楽会理事。仁智の会主宰。体験教室は、1時間2000円。稽古は夜9時まで。詳しくは、HP( https://www.hajime-koto.jp/ )
鈴木さん( 027-212-7284 )。
上原 梅弦さん
型にはまらない演奏にチャレンジする三味線奏者
安中市出身の上原梅弦さん(40)は、三味線歴22年。高校時代には友人らと組んだロックバンドでギターを担当したこともあったが、「自分の中でしっくり来なかった」と、進学した大学で三味線サークルへ。「いい音やいい感触をつかもうと研究しているうちに次第にはまっていった」という。卒業後は地元の企業に就職。趣味として三味線を続けようと、現在の師匠・松本梅頌氏に入門した。現在は津軽三味線奏者として国内外で精力的に演奏活動を行う。昨年9月には師匠と共に海を渡り、日本国・キルギス共和国国交樹立30周年行事の一環として首都ビシュケクで演奏を行った。
得意な曲は津軽じょんから節や秋田荷方節。津軽三味線は津軽民謡の伴奏として始まった楽器だが、津軽三味線奏者は三味線のみのソロ演奏も行う。
演奏会を開催するほか、三味線教室も開いている。自宅のほか、出張レッスンにも応じる。また、昨年は地元の様々なジャンルでの弾き語り演奏者が集まる「上州弾語組合」というグループに参加するなどユニークな活動も開始した。「他の楽器とのコラボなど、型にはまらない演奏にチャレンジしていきたい」と意気込む。
三味線
紅木(こうき)や紫檀(したん)、花梨(かりん)などの木材の胴に猫の皮(犬の皮・合成皮革もあり)を張り、棹(さお)に弦を3本張った弦楽器。べっこう製などの銀杏形のバチで弾いて演奏。細棹、中棹、太棹があり、太棹の津軽三味線は迫力ある音が出る。
■うえはら・ばいげん 津軽三味線奏者。1982年、安中市生まれ。中央高(現・中央中等)‐筑波大。日本民謡梅若流名取。国内外で精力的に演奏活動を行う。三味線のレッスンも随時受付中。問い合わせはメール( ueharabaigen@gmail.com )で
藤舎 英心さん
「人を楽しませたい」多才な囃子方 打って歌って録って
高崎出身の邦楽囃子方(はやしかた)〈長唄の伴奏者〉・藤舎英心さん(29)は、小鼓をはじめ大鼓、太鼓など打楽器の奏者として全国で活躍している。大学卒業後、職業として本当にやりたいことは何かと模索する中、大学OBから誘われた長唄の演奏会で邦楽と出会う。囃子方・藤舎呂英氏の奏でる小鼓の音や、演奏する姿に感銘を受け、弟子入り。さらに囃子方への道を極めたいと東京藝術大邦楽科へ進学した。コロナ禍には東京から群馬に拠点を移し、演奏会のほか体験会やワークショップの開催に加え、鼓の教室も開講している。
現在、国立劇場主催公演や舞踊会に出演するほか、2020年に結成した若手邦楽囃子方によるユニット「チリカラ伍(ファイブ)」としても活躍。先月の高崎公演では、長唄や囃子創作曲をはじめ、落語と囃子のコラボレーションも行った。一方、歌が得意な英心さんは、歌唱の一発録り(ファーストテイク)や子ども向け動画をネット配信したり、テレビ東京「THEカラオケ★バトル」に出場するなどシンガーとしての実力も発揮している。
今年の抱負について「30代という新たなステージ。地道な努力を続け、囃子方としても着実に成長し、1人の演者として人を楽しませる様々な企画にも挑戦したい」と語る。
小鼓
馬の皮で作った「革」を、砂時計の形に似た木製の筒「胴」の両端に当て、「調べ」と呼ばれる麻ひもで締める。左手で調べを握って肩に載せ、右手で皮面を打って演奏。
■15日は鼓と笛のコンサート
午後2時、高崎市総合福祉センターたまごホール。篠笛の藤舎優夏さん=写真下=らと共に出演。2000円。
■とうしゃ・えいしん 邦楽囃子方。1993年、高崎市出身在住。慶應義塾大卒業。東京藝術大別科修了。テレビ東京「THEカラオケ★バトル」出演。長唄協会会員。青濤会、眞しほ会同人。レッスン生も随時受付中。問い合わせはメール( s12596@gmail.com )で
岡村 柳侍さん
波動や余韻が体全体で感じられる魅力伝えたい
榛東村で自身が運営する多目的スタジオ「月兎園(げっとえん)」を拠点に活動する和太鼓奏者の岡村柳侍さん(46)。幼少時に、歌手だった父を病で亡くし、「和太鼓をやりたかった」という遺志を継いで8歳で和太鼓を始める。
高校卒業後、「鼓童」の研修生として佐渡で過ごした経験を持つ。2008年には和楽器ユニット「月詠-TSUKUYOMI-」を結成。CD制作やライブ開催も行う。このほか、ライブや学校公演など全国で活動。昨秋には、日本太鼓ジュニアコンクール群馬県大会で審査員も務めた。「和太鼓は、強く打てば強く、弱く打てば弱くと、人の心を映す。聞く人に気持ちを届けられるような演奏をしたい」と話す。
月兎園は宿泊も可能で、和太鼓練習だけでなくバンドのリハーサルや合宿など多様な用途で活用できる。スタジオ内には各種和太鼓がそろっており、今春には和太鼓教室も開講予定だ。「重低音が轟き、波動や余韻が体全体で感じられ気持ち良いところが魅力。敷居が高いと思われがちだが、簡単に誰でも音が出せる楽しさを多くの人に伝えたい」と意気込む。
和太鼓
和太鼓は祭礼や能・歌舞伎、寺社の儀式などに用いられる。長胴太鼓(宮太鼓)、桶胴太鼓、締太鼓の3種類。木製の胴に張った皮をばちで叩き振動させて音を出す。伏せ打ち、正面打ち、横打ちなど置き方によって叩き方も異なる。
■おかむら・りゅうじ 1976年東京都生まれ。幼少時に群馬へ。8歳で和太鼓に出会う。高校卒業後、「鼓童」の研修生として学ぶ。25歳でプロに。靖国神社・奉納演奏など全国で活動。多目的スタジオ「月兎園」を運営。今春、和太鼓教室を開講予定。問い合わせはHP( https://www.okkam-net.com/home )から